株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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採用

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

「人」にからむ課題を引き続き考えていく。前々回前回は「キャリアパス」というものについてお伝えしたが、すでにお分かりのように、これは採用対策とも深い関わりがある。この流れで、今回より採用の問題を取り上げていきたい。

今日、大半の旅館が人手不足に苦しんでいる。その具体的な実態について述べることは省くが、あえて申し上げておきたいことがある。それは、こうした旅館のうち大多数が、これを「目先の問題」としてしか捉えていないのではないか、ということだ。「接客係が3人もそろって退職した。募集したが応募がない」、あるいは「○○さんが辞めてしまった。代わりがいない」…どうしようか? といった具合である。これはこれでもちろん大変なことだし、対応しなければならないが、こうしたこととは別に、考えておきたいことがある。それは「この先5年後、10年後にどうなるか?」ということだ。バック部門、あるいは接客の最前線において、70代(あるいは80代)の労働力に頼っている旅館も多い。それらの人たちが、5年後も今と同じように働き続けてくれるだろうか? 5年ぐらいはあっという間に過ぎる…。

 

今、生産年齢人口が減少傾向にあることは先刻ご承知の通りだが、採用環境でもう一つ、構造的に重視しておくべき問題がある。一言でいえば「若者の地元採用の限界」だ。要因としてあるのは、「田舎から都市部へ、地方から大都市へ」の若年層の流出が一段と進んでいることである。旅館業界は、これまで地元の高卒人材を重要な労働力として取り込んできたが、高卒者の絶対数が年々少なくなってきていることに加え、「大学全入時代」となったことも手伝って、近年は高卒で就職する人の割合も低い(2017年の統計で2割弱)。旅館集積を抱える地域の中には、周辺で数えるほどしかいない高卒就職希望者を求めて、何十軒もの旅館(旅館以外も!)が争奪戦を演じているというところもある。そして大学なり専門学校へ進学した人たちの多くは、都市部へ、大都市へと転出して、卒業後に地元には戻らない場合が多い。こうなると、「地元での新卒採用」ということは、三大都市圏や、大学などを擁する地方中核都市圏(県庁所在地や人口おおむね30万人以上の都市周辺)などに立地する旅館でもない限り、これから望めなくなってくると思われる。高卒にせよ、大学・短大・専門学校卒にせよ、若い人材は「地元以外」から引っ張ってくる必要に迫られるのだ。

 

一定の規模を持ち、広いエリアに名の知られた旅館などはまだ良い。またこれまでもそういう求人活動をしてきたであろう。しかしそうでない大多数の旅館にとって、これはかなり深刻な問題である。大卒を中心に、たくさんの応募者の中から選べる会社がある一方で、採用の手立てもなく窮する会社が、今後増えてくる。採用の優劣も、いや、採用の優劣こそ、これからますます二極分化が進むものと予想される。

 

厳しいことばかり述べたが、これは経営者の皆さんに危機感を持っていただくためであって、将来をただ悲観することは小欄の趣旨ではない。「ではどうしていくべきか?」ということを含め、次回以降で考えていきたい。

 

 

 

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2020年2月に観光経済新聞に掲載されたものです。

 

 

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