旅館経営の知恵
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人事評価
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
賃金制度の再設計と密接な関連をもってくるのが人事評価である。そこで今回はこれについて考えたい。
ところで、世には「人事評価」と「人事考課」という二つの用語がある。結論から言えば、両者に大きな違いはない。「人事考課」は、どちらかというと昇給や昇進といった処遇判断を目的に「査定」するといった意味合いが強いのに対し、「人事評価」は、それを含めて社員の能力開発とか意識啓発といったことまで踏み込んだ活用が意図されていると言える。つまり「人事評価」の方が、「人事考課」よりも広い概念で捉えられることが多い。しかし最初に述べたように、実際問題としての用いられ方に大差はないので、ここではほぼ同義のものとして扱いたい。
人事考課は、一般に次の三つの観点から行われる。(これは以下が用語として確立されているので「考課」を用いる)
業績考課=生み出した業績や成果。
能力考課=持っている知識や能力。
情意考課=仕事に臨む態度や行動、努力。
それぞれにいくつかの評価項目を設定し、S、A、B、Cとか5段階などで評価するのが一般的だ。
「業績考課」は、職種によっては数値に基いて評価される。ただし旅館の仕事は協力して行うものが大半なので、営業職など一部を除き、個人業績を数値的に評価することは難しいだろう。「能力考課」は、職務に関わりなく使える共通の基準を設けて評価するのが一般的だが、旅館の場合、部署によって職務の内容が大きく異なるので、評価基準は共通項目と部署別項目のミックスで組み立てるのが妥当かもしれない。「情意考課」はおおむね共通した基準で測ることができる。
話を整理すると、旅館での人事考課は、共通基準による「情意考課」に、共通評価基準と部署別評価基準のミックスによる「能力考課」を組み合わせたものをベースとし、これに業績の客観的把握が可能な職種や役職者についてのみ「業績考課」を加える、というのが現実的なところだろう。
「能力考課」に関して、下位レベルにある人なら、部署ごとに知識や技能の習得度を客観的に評価することが可能である。つまり「○○ができる」「○○について十分な知識を持っている」といった基準だ。またこうした要素は、それら基準に応じたペーパーテストや実技テストを行うことも可能であろう。しかし上位の階層となるにつれて、そういう物差しを当てるのが難しくなる。そこで「現場業務を段取り、指揮することができる」「部門を管理統率することができる」「部門の方針について総合的な判断ができる」といった抽象的なものになる。これはこれで意味があるし、また必要な評価基準だ。ただ気をつけたいのは、ともすると決められた枠の中で、役職に見合ったタスクがこなせるか、といった尺度ばかりになりがちなことだ。言うなれば「型にはめて評価する」ということになる。
今求められているのは、むしろこうした「枠」を良い意味で突き破って、創造的な発想や活動を生み出す能力であり、パワーである。人事評価は、評価(=採点)することよりも、それを通じて高い能力や活動を引き出すことの方が、より重要なのである。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2019年10月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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