旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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労務管理と人的資源管理
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
今は旅館に限らず、とにかく人手不足の時代である。
こうした状況下では、人の使い方、というより活かし方が大きな課題となってくる。かつてのような意識で人の扱いを考えていくことは通用しなくなってきている。そこで今回よりしばらくは、「人(従業員あるいは社員)」の問題を考えていきたい。人にからむ課題や対応策については、これまで本連載でもたびたびふれてきたが、あらためて「人」を軸に据えた多面的な考察を試みたいと思う。
この問題について考えていくにあたり、始めに少々面倒くさい話をする。
人に関わる分野の管理は、ひと昔前まで「人事労務管理」あるいは「労務管理」と呼ばれてきた。もちろん今でもこれらの言葉が使われないわけではないし、それはそれで生きているが、近年これは「人的資源管理」という言葉に置き換えられるようになってきた。読んで字のごとく、「人的資源」を管理していくという意味で、これは英語の「ヒューマン・リソース・マネジメント」(Human Resource Management=HMR)を日本語訳したものである。
「(人事)労務管理」と「人的資源管理」――少なくとも今日、2つの言葉の表す領域や考え方には、じつはそれほど大きな違いはない。「(人事)労務管理」が意識すべき領域が時代とともに広がり、また考え方が発展してきて、もはやこの用語で表すことが適切でなくなってきたので、中身に合わせて、より普遍的な呼び名に変わったと言える。ヤドカリが成長して、貝殻のサイズが合わなくなってきたので、より大きな貝殻に住み替えたようなもの、と思っていただければよい。
ただしこの2つは、そもそも考え方の出発点というか、思想が異なる。細かく見ればいろいろとあるが、ごく大ざっぱに言うと、「(人事)労務管理」は、従業員を「いかに企業の既成のワクにあてはめて使うか」という視点から出発したものであるのに対して、「人的資源管理」とは、人を企業にとっての資源と捉え、それを戦略的な経営や変革に活かそうとする発想に立つものである。またその対象を、「一個の人格」あるいは「生身の人」として見る。従って個性や価値観、人材育成といった面を、より大事にする思想が、そこにはこめられている。
さて、どうしてわざわざこんな理屈っぽい話をしたのか?……それは、この思想の違いこそ、これからの旅館が正しく認識していくべきことであり、直面する多くの課題への解決策につながっていると思うからである。
「人」に関するテーマは非常に幅広い分野におよぶ。冒頭に述べたように、この先しばらく、これにからむ話を展開していきたいと考えているが、その際、「人的資源管理」に盛り込まれた思想を基本的には土台としていきたい。とはいえ小欄は学術論文ではないし、現実はきれいごとだけで済まないことも承知しているので、必ずしも理想論を貫き通せるわけではないと思う。
また小欄のタイトル「旅館はもっと良くなるべきだ」は、「旅館にもっとがんばって繁栄していただきたい」という願いをこめている。だからあくまでもその路線上で話を進めていきたい。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2019年4月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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