旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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磨け! 独自価値(6)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
前回まで、「独自価値」というもののイメージについてお伝えしてきた。ここからは、「では独自価値を持つために、どんなことに着目していくか」ということを考えていきたい。
独自価値づくりの着眼点 (ⅰ)強み
どういうものを材料とするか、まず着眼すべきは、SWOT分析における「強み」と「機会」である。しかしそもそも何を「強み」や「機会」として捉えたらよいのか?
この場合の「強み」は、「持てる商品資源」と考えてよい。こんなものがある。
立地条件、眺望、歴史、施設、庭園、継承価値(伝統、文化財)、料理、接客サービス、運営ノウハウ、社員の人柄、食材調達ルート…。
この中で一つ重視すべきものとして、立地条件を取り上げたい。
○○が目の前、○○に1番近い、○○に囲まれた。
立地条件はそれぞれの旅館に固有のものである。「VRIO」の3番目の条件として「模倣されにくい」があることを述べたが、まさに立地条件は模倣のしようがない。だからこれが、独自価値づくりの重要な鍵となる場合がある。自館から見える景色などは当然考えられることだが、資源となるのは、目の前や、すぐ隣にあるものだけとは限らない。外の資源をひとまとめにして、自社の「強み」にすることができる。
千葉県木更津市にある「龍宮城スパ・ホテル三日月」さんは、ファミリー層を明確にターゲットと位置付けている。ファミリー客に楽しんでもらうことを主眼に商品展開を行っているが、その一方、近くに「三井アウトレットパーク」をはじめ、ファミリーで楽しめるレジャースポットがいろいろあることを、強力な「売り」にしている。どれも車で10分以内で行ける範囲にあることから、名付けて「10ミニッツ・ハッピーゾーン」。
単にレジャースポットとして紹介するのとは意味が違う。それらを楽しんで回るための拠点として自館を印象付け、周辺の観光資源を、まるごと自館の「商品資源」として取り込むコンセプトだ。立地の強みを生かした「独自価値」づくりの例といえる。
また、資源として認識されていないものもたくさんある。
長崎県壱岐島にある「平山旅館」さんは、地元の海産物や自家栽培の野菜などをふんだんに使ったお料理で、お客さまをもてなしている。お料理はそれぞれに、土地柄を感じさせる内容だが、特に名高いのは「島茶漬け」と呼んでいる鯛(たい)茶漬けや烏賊(いか)茶漬けだ。
2001年に、ネット通販でこれを売り出した。通販ショップの名前は「壱岐もの屋」―「壱岐のもの=壱岐の恵み」をそのまま広めようという思いがこめられている。島茶漬けは、旅館のファンであるお客さまからの支持を得て、また一般的な商品にはないこだわりの味わいが受けて、全国に買い求める人が広がった。
ネーミングが普通に「鯛茶漬け」では、これだけ売れなかっただろうと思う。壱岐という、都会に比べたら何もない島で作られるものだから意味があり、価値があるのだ。
見慣れた当たり前のことも、別の角度から光をあててみると、価値を生む「資源」に変わる場合がある。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2018年11月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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