株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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生産性向上の大局観(8)

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

「社員を育てる」ということの効用をあらためて考えてみたい。育てることは能力を高めることにつながる。それだけ仕事ができるようになり、従って生産性も高まる。もう一つの効用は、それによって定着化が図れるということだ。

人材育成と生産性向上

例えば、毎年3人採用して3人とも辞めてしまう会社(A社)と、毎年1人ずつ採用して1人も辞めない会社(B社)があるとする。3年目の採用を終えた時点で、社員の数はA・B社とも3人である。

仮に1年目社員の能力が1で、2年目が1.5、3年目が2になるとすると、A社の能力総和は1×3=3であるのに対し、B社のそれは1+1.5+2=4.5となる。戦力は1.5倍だ。しかもB社の新規採用のコストはA社の3分の1で済む。

 

もちろん、育成をする、しないだけが定着度合いを決定するわけではないので、現実にはこんな単純な話ではない。しかし育成と定着、そして生産性にそれなりの相関関係があることは間違いない。また人が育てば、新入社員などの若手に「教えることのできる人材」がそれだけできることにもなり、これも間接的に生産性の向上につながる。

 

以上のようなわけで、社員の育成にはしかるべきコスト(お金・手間)を掛けるべきなのである。そしてこれは組織的、計画的に行うことが肝心だ。必要なのは新入社員教育だけではない。ところがほとんどの旅館で、一定期間の新入社員教育の後、いったん現場業務に組み込まれると、そこから先に育てる仕組みがない。「現場で、OJTで…」というが、果たしてそれだけで十分だろうか?

 

社員と仕事の関係において「3年目の危機」というものがある。入社して初めの1~2年は「一人前」の仕事ができるようになるために張りを持って一所懸命やっている。しかし3年目を迎えて一通りのことがそつなくこなせるようになる頃、その先の目標ややりがいを見失う。モチベーションの停滞に陥り、時として辞めてしまう。会社とすれば、これから活躍してもらいたいと思う矢先に大事な人材を失うことになる。それこそ生産性において大きな損失だが、旅館ではこのケースがかなり多い。なぜか?

 

大きな要因の一つは、多くの旅館で、社員が現場業務をこなす「員数」としてだけ捉えられており、それ以上の「生かし方」が想定されていないことにある。このため中堅以上の社員を育てる仕組みがそもそもない。裏返すと、社員の人生設計に対する関わりが薄いともいえる。10年ぐらい前まではそれでも良かったかもしれないが、今は違う。ここの部分の考え方を変え、仕組みを作っていかなければ組織能力の向上も人的生産性の向上も望めない。

 

「顧客生涯価値」(ライフタイム・バリュー=LTV)というマーケティング用語がある。これは企業が1人の顧客から生涯のうちに得られる利益の総額を表わす概念である。同じ顧客数なら、次々に新規の顧客を開拓して維持するよりも、より少ない顧客と長い間の付き合いを維持していく方が得策という考え方とつながっている。これと同じことが人材にもいえる。

 

 

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2018年7月に観光経済新聞に掲載されたものです。

 

 

 

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