旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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生産性向上の大局観(3)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
資本装備率の中身
資本装備率の高い産業は一般に労働生産性が高いということを前回で述べた。
資本装備率とは、従業員1人当たりどれだけの資本ストックを持っているかを表わすもので、有形固定資産額÷従業員数で求める。労働装備率とも言う。
資本装備率の高い産業、すなわち従業員数に対して多額の有形固定資産を持つような産業は「資本集約型産業」と呼ばれる。大ざっぱに言えば、多額の資金をかけて生産装置を備え、その装置に稼がせる産業である。たとえば、太陽光発電をイメージしていただくとよい。これに対し資本装備率が低く、付加価値をもっぱら人的労働によって生み出す産業を「労働集約型産業」と呼ぶ。
概して言えば、資本装備率が高いほど労働生産性は高くなる。ただし単純に労働生産性の高い低いだけで事業の収益性を測ることはできない。資本集約型の事業では生産設備に大きな資金が投入されているので、それが回収できるだけの十分な収益を上げる必要がある。
旅館業はどうかというと、実は位置付けが難しい。付加価値を生み出す仕組みとしては、まず労働集約型であると言ってよい。しかし一方で、資本装備率はもろもろの産業の中でもかなり高い部類に属する。つまり旅館は「労働集約型産業と資本集約型産業の両方の性格を併せ持っている」と言える。さて、そこで考えたいのは次の点である。
「旅館の資本投下は労働生産性を高める結果をもたらしているか?」「労働生産性を高めることを意識して資本投下が行われているか?」。これについて、二つの側面から見てみたい。
まず、旅館の設備投資は商品投資である。この商品投資がしかるべき付加価値を生み出しているかどうか?…高い単価、高い稼働を上げていれば、高い付加価値を生んでいると言える。ただしそれが、たとえば極端に高い原価率や人件費率によって保たれているのだとしたら、何をやっているのか分からない。要は「ちゃんと施設に稼がせているかどうか」、分かりやすく言えば室料をしっかり稼げているかどうかである。
もう一つは生産効率を高めるという側面。端的に言えば「機械化」「自動化」である。そしてその余地は非常に大きいと考える。
旅館の仕事は、人手をかけてやるのが当たり前と長年思われてきた。そもそも機械化、自動化といったことにあまり目が向かない。だから資本投下の対象としても意識されることが非常に少ない。旅館において「生産性を高めるための機械化投資」と呼べるものがどれほどあるか? サービス用エレベーター(リフト)、食器洗浄機、自動炊飯器ぐらいではないだろうか。ここをなんとかしたい。
とはいえ、オーダーメイドの機械設備に何十億、何百億もかけられる大企業ならいざ知らず、完全な機械化、自動化は望むべくもない。だが生産効率を大きく高める設備機器はある。その最たるものは料理の自動搬送装置だ。人海戦術でかなりの労力を必要とする作業が、これだと瞬時に終わる。また筆者はいまだ耳にしたことがないが、調理の盛り付け作業なども、製造ラインで使われているロボットの活用などを考えていってよいのではないか。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2018年5月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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