旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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業務効率化への取組み(36)業務を減らすⅶ
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
トイレが汚れている、障子の桟やテレビ台の裏にホコリがたまっているといった苦情が、何度もアンケートに書かれる旅館がある。
掃除の質・頻度の見直し
掃除の不行き届きが問題となる要因は2つに大別される。ひとつは掃除のやり漏れ、ないし手抜き。もうひとつは、指摘される場所がそもそも「掃除すべき対象」に含まれていないケースである。こうした場所は長い間まったく掃除が行われていない。「掃除スタンダード」のレベルの違いである。証拠があるわけではないが、掃除の苦情が多い旅館では、原因の大半が後者ではないだろうか。
他方、筆者はいくつかの旅館で客室掃除の現場に立ち合い、その様子を貼りついて見る機会があったが、そこにおいてはまさに部屋のすみずみまで、とても丁寧な掃除が行われていた。トイレでは膝をついて、便器を抱えるようにしながら、便器といい床といい、きれいに磨き上げる。テレビの裏側やそこにある配線コード、金庫の中の棚、机の引き出しや文箱の中まで、一つひとつ拭き取りが行われていた。
清潔感はネット予約サイトのクチコミでも評価ポイントのひとつだ。だから掃除を丁寧にやるのは品質保証の意味で重要であり、また「清潔」であることは、客商売の基本的な精神として備えておくべき姿勢であると思う。だが果たして毎日ここまでやる必要があるのか、あえて疑問を呈したい。
提案したいのは、これらのうち毎日やるべき箇所、3日おき、あるいは週に1度にやる箇所、と区分けしてはどうか、ということである。
物の裏側や引き出しの中といったところに、1日や2日でホコリが積もるということは考えにくい。ただし前の晩泊まったお客さまが、そういうところにゴミなどを置いたり汚したりしてそのままになっていることがある。従って、そういう場所がきれいな状態にあるか「点検」は行う必要がある。
しかしかかる時間は、毎日すみずみまで掃除をする場合と、これらを「目視点検+必要により掃除」とする場合とでは、それなりに変わるはずだ。美徳に背いて「せこい」ことを言うようだが、仮にこれまで1部屋当り30分かけてやっていたものを25分でできるようになるとすれば、作業時間にして16%余りの短縮となる。品質を落とすことなく実現できるとすれば大きい。
掃除を外注業者に委託している旅館も多いと思う。むろんそういうところでは、彼らの業務効率の良し悪しが直接旅館の経営業績に影響するわけではないが、それは業務料金というかたちでいずれは跳ね返ってくる。これからの時代、こういうことは共に協力して向上を図ることを考えていく必要がある。
宿泊産業の生産性向上、いや労働力人口の減少を前に検討すべき課題は、今やそこまできていると認識したい。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2018年4月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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