株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

読んで見直す旅館の接客-心得編(3)-
商品開発と情報発信

接客サービスの品質向上

読んで見直す旅館の接客-心得編- 第3回は商品開発と情報発信についてです。

1.魅力的な商品を持つ

当たり前のことですが、お客様が「買いたいもの」が無ければ、商売は成り立ちません。
時代の変化に応え、お客様の興味を引き出せる商品であるかを常に検証し、新たな「売りもの」の開発を怠らないことが必要です。

 

例えば、料理は「季節の料理」というテーマだけではアピールできなくなっています。「地産地消」の考えを取り入れた食材や健康志向に訴える食材を使っている、アレルギーのお客様への情報提供をしている、などが、売れる料理には必要とされるようになりました。

 

ところで、リピーターのお客様は、以前利用した時に気に入ってくださったので、同じ商品が再び提供されることを求めているのでしょうか。
全てを同じ状態で提供できるとは限りません。料理は季節で変わるでしょうし、お客様も違う料理を楽しみにしているかもしれません。
逆に、料理を変えたら「前に来た時と違うので残念だった。」などという声を聞くこともあります。

 

それでは、一体どうしたらよいのでしょうか。

答えのひとつは、「お客様が本当に気に入ってくださったもの、変わらずに提供してほしいと思われたものを知ること」です。
顧客カルテをお使いのところでは、この情報が欠かせません。何気ないお食事中の会話などに、大切な情報が隠れているものです。多くの方が気に入ってくださっている部分は安易に変えないほうがよいでしょう。それでも変わることがありますので、「この度からこのようにしてみましたが、いかがでしょうか。」とご感想を求めて、お客様の意向を大切に商品開発しているということを表現したいものです。

 

もうひとつの答えは、「いつ見えても新鮮に感じられる商品を提供すること」です。来るたびに魅力を見つけられてこそ、また来たい理由になるというものです。

 

リピーターのお客様に対しても、新しいお客様に対しても、魅力ある商品を開発し提供する必要があるのです。

 

 

2.老舗はいつも新しい

日清のカップヌードルの話は有名です。1971年の発売以来、パッケージも味もほとんど変わりません。ということは、変わっているのです。
先日テレビ番組の中で、家庭に買い置きしているカップ麺のランキング調査がありました。日清のカップヌードルが1位でした。
現代の老舗の努力とは、こういうものなのかもしれません。

 

さて、旅館の話をいたしましょう。

今日、熱海の街で見つけたポスターは、老舗のT荘さんのものでした。それは、著名なジャズ演奏家やジャズシンガーを招いての演奏会のお知らせで、宿泊客以外の方も演奏会にだけうかがうことができるように書かれていました。

 

パソコンを前にすると、T荘さんのことを調べてみたくなりました。落ち着いた世代のお二人様向けのお宿、お部屋でゆっくりするためのお宿だと勝手に想像していたので、正直言って驚きました。
プランには家族旅行プランあり、近くの美術館の定期演能会と組んだプランもあります。館内にはエステルームや貸切風呂・温泉床・足湯などの施設があり、お料理も懐石料理だけではなく寿司膳料理・鉄板焼き料理を選ぶことができるように、紹介されています。
客室は由緒ある純和風の数寄屋造りで、手入れが行き届いている様子が写真からうかがえます。客室備品の欄には、最新式のマッサージチェアを完備、とうたわれています。

 

ジャズ演奏会には残念ながら行けなくとも、むしろ機会を作って泊まってみたいと考えるきっかけになりました。

 

 

3.情報で優位に立つ

情報が正確であることに加えて、スピードが重要です。ホームページ上の情報は、日付が古いだけで、お客様に意欲のなさを感じさせてしまう時代です。
こまめに情報を発信し続けることは、お客様を引き付ける魅力のひとつなのです。

 

お客様は、料金だけで宿泊先を選ぶわけではありません。
料理の方針や施設、さらに自分に合うおすすめプラン、インターネットでは他のお客様のコメントやその返信内容まで、何軒かの情報収集をしてから判断するのです。電話で相談する方も、予め情報を集めてからかけてくることがほとんどです。
この情報収集の段階で、他館に引けを取らないようにしなければなりません。自館の魅力を伝え、いつも競合より優位に立つことを目指さなくてはならないのです。

旅行社の集合パンフレットやインターネットの予約サイトの写真は、まさに「比較してください」と言わんばかりに並べられています。

 

うちの写真は、競合より勝っていますでしょうか。

 

 

4.館内でこそ情報発信する

情報発信というと、外へ向けてのもの、営業や予約が担当する仕事と思われていないでしょうか。

 

お店に並んでいるものは手にとって確認したり、実物を見比べたりすることができますが、私たちの商品である宿泊や食事、サービスは、想像で判断するよりほかありません。
しかし、滞在中に次につながるおすすめができるならば、その想像を具体的にイメージしていただきやすく、次回のご来館への絶好のチャンスになるのです。

ですから、館内でこそ、お客様に次回の過ごし方楽しみ方を提案しましょう。

 

さて、家族旅行にいらしたお客様から、「今ロビーに受付している人達がいたけれど、こちらは会議なんかもやってくれるの?」と、たずねられたらどのように答えますか。
「はい、承りますが、詳しいことは予約がご説明いたしますので、お問い合わせくださいませ。」と、話を他に振っていては困ります。

 

これでは、結局他館との競合で、おなじスタートラインに立たなければなりません。せっかく他館に先んじてアピールできるチャンスをいただいたのですから、チャンスを生かすお返事をしたいものです。
「○名様位までの会議をお受けしております。会議に必要なスクリーンやプロジェクターのご用意もございます。会議のお客様には専任の担当者が準備から当日の運営までお手伝いさせていただいております。」
この程度の話ができれば、お客様も「せっかくだから、詳しく話を聞いて帰ろうかな。」と思われるはずです。そうなれば、いずれ他館との競合があったとしても、同じスタートラインに立つ必要はありません。

 

次回につながるすばらしい答えをいただいたことがあります。

 

山梨県のホテルK苑の湯上り処でのことです。
「いいお風呂ですね。こういう所に、日帰りでも父を連れてきてあげたいんですが、車椅子を使わないといけないので、残念です。」と話したところ、「車椅子のお客様にもお楽しみいただける日帰りのプランがございます。こちらのお部屋でしたら‥‥」と、日帰りプランのパンフレットを持ってきて、説明をしてくれたのです。
そのパンフレットには、特に車椅子を利用できるとは記載がなかったのですが、どうすれば車椅子のお客様もご利用いただけるのか、その人はよく理解していたのです。
さらに「お時間があれば、こちらのお部屋をご覧いただくこともできますので、おっしゃってくだされば、お部屋の係がご案内いたします。」と付け加えてくださいました。

 

実物を見ることで、利用する安心感が生まれ、実際に利用したい気持ちも高まります。
さらに良いことは、ご案内をするのが予約やフロントの方ではなく、お部屋係さんという点です。予約やフロントの方の案内では、予約しなければ申し訳ないからと気がひけてしまうところですが、お部屋係の方と聞いてお願いするのも気が楽になります。これもまた、お客様の立場に立った対応でした。

 

接客の現場で情報を発信することの大切さを、わかっていただけたでしょうか。

 

商品力と販売力があれば「売れる」のです。

◆リョケンでは、旅館・ホテルの接客力向上のための講座を定期的に開催しています。研修の講師派遣も承ります。また、書籍・eラーニング接客講座もございます。
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