株式会社リョケン

旅館経営の知恵

-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-

業務効率化への取り組み(4)工程

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

前回に続き、作業について考えていく。今回は作業を「工程」という目から捉えてみる。事の性質上、たびたび製造業を引き合いに出すことになるのをお許しいただきたい。なるべく旅館の現場業務に即して話を進めたいと思う。

工程

仕事や作業を進めていく順序や段階を「工程」と言う。作業レベルでの「工程」は四つ ―「加工」「検査」「運搬」「停滞(あるいは貯蔵)」に分けられる。このうちの「加工」が付加価値を生む工程である。

旅館は製造業と違って業務があまり連続的ではないのでピンとこないかもしれないが、例えば調理、盛り付け、食器洗浄、食事会場のセッティング、客室清掃・セッティングといった作業は、これに当てはめて捉えることができる。盛り付けであれば、盛り付ける作業そのものが「加工」、盛りくずれや異物混入がないかチェックするのが「検査」、盛り付けたものをコンテナに載せたりワゴンに積み込んだりするのが「運搬」、盛り付けるべき料理の出来上り待ちなどが「停滞」である。

食事提供はどうか…。お客さまの前でするサービス行為は、サービス自体が商品でもあるので、このような捉え方にあまりなじまないが、強いて言えば、お客さまの前で料理を出したり、よそったり、説明を添えることなどが「付加価値を生む(かもしれない)工程」=「加工」に当たり、それ以外のほとんどが「運搬」「停滞」に属すると考えられる。「お茶出し」「飲み物提供」「布団敷き」といったサービス行為の多くに、これと同じことが言える。

ところで重要なのは、最初に述べたように、四つの工程のうち「付加価値(=お金をもらえる価値)を生むのは『加工』だけ」ということである。その他の三つは残念ながら価値を生まない。ゼロにすることはできないが、そこにかける時間や労力は、できるだけ少なくすることが望ましいとされる。
ただし、ここで「検査」(=仕上りの「チェック」)は、作業ボリュームとして見れば、旅館の業務においてそれほど大きな要素ではない。また「停滞(貯蔵)」は、問題とすべき「停滞」もあるが、どちらかと言えば時間当たりの生産量とか、受注から納品までの時間(製造リードタイム)に関係することである。出来上がった料理をいったん冷蔵庫にしまっておく、食事会場のセットを夜のうちに途中までやっておき、後は翌朝から行うためそのままにしておく、というような状態のことなので、これもさほど重視する必要はないと思う。

問題にしたいのは「運搬」である。工程分析の世界では「運搬は全てムダ」と位
置付けられる。運搬そのものは何の価値も生まないからである。ところが旅館の作業現場を観察してみると、「運搬」作業は思いのほか多い。しかも旅館では、この「運搬」作業のほとんどが機械でなく人=まさに人力によって行われている。旅館の労働生産性を考える上での、大きな課題のひとつがここにある。運搬を全くしないわけにはいかないが、これを必要最小限に絞り込んでいくことで、旅館の作業はかなり省力化できる。しかし多くの旅館でそのことがあまり意識されていない。

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2016年10月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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