旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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利用ニーズの変化と対応(5)客室タイプ構成
個人客が主体となってきている中で、画一的な規格の部屋をそろえるより、あえて部屋タイプのバリエーションを増やしていくことについて前回提言した。このことをもう少し詳しく考えてみる。
客室タイプ構成
部屋タイプの多様化には以下の五つのメリットがある。
(ⅰ)多種多様なニーズに対応することができる。
受け入れ可能な客層、利用ニーズの間口が広くなり、お客さまの方でも「自分に最適な部屋」を見つけられる可能性が高まる。
(ⅱ)HPやパンフレットに、いろんなタイプの部屋が紹介できる。
タイプごとに部屋の個性や特徴を取り上げることになるので、客室それぞれの存在感が鮮明になる。また旅館としての奥行き感を印象付けることができる。
(ⅲ)リピート利用の促進に活かせる。
中にはいろんなタイプの部屋に泊まってみたいというお客さまも意外と多い。
(ⅳ)タイプごとの企画商品造成ができる。
客室タイプを商品企画に活かすことで、より販売に直結させることができる。
(ⅴ)自館の描く「顧客ミックス」とのマッチングができる。
たいていの旅館ではいろんな客層を相手にしている。「顧客ミックス」とは、それら客層の構成割合を言う。これの現在や将来の比率に合わせて、客室タイプの構成比率の最適化を図る戦略がとれる。
以上のうち、これからの旅館マーケティングを考える上で特に着目したいのが(ⅳ)と(ⅴ)だ。
つまり客室を単なる「泊める器」ではなく、より攻撃力を帯びた武器と捉えて市場戦略の中に位置付ける考え方である。自館の客層構成の分析や、これから開拓していこうとする市場の方針などに合わせて、客室タイプや客室数構成をつくりあげていくのだ。
むろん一度に実現するのは困難なので、将来像を描いて、客室改装のたびに少しずつ実現していく。途中で軌道修正があってもよい。むしろ「もくろみ違い」や「市場の変化」といったリスクに柔軟に対応する意味でそれが大事である。
部屋タイプの多様化にはデメリットもある…
(ⅰ)同じタイプの客室を多数求められる団体・グループ客への対応には苦労する。
(ⅱ)客室の使い回しが利きにくく、タイプごとに売れ残りを生ずる恐れがある。
(ⅲ)料金体系や客室の在庫管理が複雑になる。
(ⅳ)「当館は全客室こうです」といったわかりやすいアピールはしにくい。
(ⅴ)掃除やセッティングのあり方がいろいろになり、作業のパターン化がしにくい。
(ⅵ)多数の客室を改装する場合でも、スペックが違うので調達部材や加工手間などが小ロットになり、コストが割高につく。
多様化すべきか、せざるべきか…大ざっぱに言えば、商品力・商品価値と、単純明快・ローコストのどちらを選ぶかという選択でる。どちらが正しいとは一概に言えない。これも各旅館の戦略選択である。しかし今後、客室の整備を考える際には、部屋タイプの多様化という選択肢もあることをぜひ視野に置いて検討してみていただきたい。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2016年7月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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