旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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集客経路の変化(5)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
⑦ネット対応の外部委託の見直し
ネット対応の煩雑さや特殊性から、ネット販売の組み立てからネット予約サイトの対応まで、そっくり外部の会社に委託しているケースも多い。多くは売り上げに対する歩合制である。ネットによる集客がそれなりに増えるので、そこにかかる委託料コストはあまり気にされていない。
しかし現在の委託料が数年後、どれほどの金額になっているかを想像してみていただきたい。旅行社の取り扱い手数料を超えて、大きな営業経費となっていくことが予測できないだろうか? また販売の依存を続ければ、そのうちに自社では何もできなくなり、ネット予約サイトやこれら業務委託会社との力関係も逆転してしまう。
旅館の集客において、いまやネット対応スキルは切り離せない能力となりつつある。「わからない」では済まされない。ネット比率50%の時代を想定すれば、「ネット対応の社内化」は検討を進めるべき重要課題である。
若い人にはコンピュータやネットへのアレルギーはないので、基礎教育を行えば対応できる。またこうした分野の専門知識を持った人材の人件費コストも、その価値を考えれば大きな費用ではない。社内人材としてネットの専門家を採用するのは難しいことではないのである。
さらにネット予約だけでなく、ホームページ(HP)の制作なども自社で対応することができるレベルを目指したい。全体の枠組みやデザインは専門会社に委託してもよいが、そこに新たなページを加える作業や、ちょっとした修正をいつまでも外部に依存しているのは考えものである。かかる費用もさることながら、問題なのは、HPの機動的な運用ができない、つまり固定的なものになってしまうことだ。
HPをたんなる「予約装置」と思い違いしていないだろうか?・・・宿泊プランを陳列し、それによって予約を成立させるマシンという捉え方である。確かにそれはHPの担う重要な機能ではある。しかしそれだけの認識だと、ネットに関わる対策は、ほとんど「宿泊プランの書き換え」、「客室の出し入れ」、「ネット予約サイトでの露出」といった操作に終始する。それでよいのだろうか?
厳密に言えば、これらはHPに付随する「予約エンジン」や、外部との接点における機能であって、HP本体のそれではない。よく見られるのは、宿泊プランはじつにバラエティ豊か、内容も頻繁に更新されている一方で、本体のHPがどこにでもあるような施設紹介や料理紹介で、しかも十年一日のごとく変わっていないケースだ。
旅館は日々お客さまとじかに接する舞台であり、活動的なはずである。例えばお客さまのために何か新しい取り組み―乳幼児を抱えるママさんサポートやバリアフリー化など―を始めたとして、それをどこでアピールしていくのだろうか?
あるいは旅館の思い入れや親しみ感をどこで表現していくのだろうか?
HPの果たすべき役割はもっと幅広いものであるはずだ。
⑧自社サイトだからできる差別化
ネット予約サイトにはシステム上の課題として、二つの壁がある。
(1)一度に複数の部屋を予約できない・・・グループ予約が難しい。
(2)予約以降のサポートは宿任せ・・・しかし、宿側も深く対応できない。
予約の確認や調整、情報提供をお客様と綿密に行えるのは「自社ネット扱い」だけである。だからメールや電話を利用して、もっと顧客への対応をしていこう。今後は対応の親密さ、きめ細かさがネット予約サイトとの差別化になる。必要に応じて電話でのサポートや現物資料の郵送ができることなども、逆の意味で有効な差別化手段となる。
(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2016年5月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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