株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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お届けする経営のヒント-

集客経路の変化(1)

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

今日の旅館をとりまく市場の特徴として、本コラムの〈9〉で次の四つを挙げた。

①高齢化の進展②個人旅行の主流化③インバウンドの急増④集客経路の変化(ネット化)。

このうち①から③に関して、また加えて「将来顧客を育てる」という観点から、対応する方策について述べてきた。
さて、もうひとつの大きな特徴は「集客経路の変化」(ネット化)である。弊社ではかねて「ネット比率50%時代」の到来をお伝えしてきた。そしてネットは今や、集客の最重要チャネルといえるまでになってきている。
ネットで集客対応することの是非は、もはや論ずるにおよばないだろう。またその手法について述べるのは別の機会に譲るとして、ここでは「ネット比率50%時代」における販売商品と予約対応のあり方を大局的に捉えてみたい。

①個人客時代の販売と商品

ネット比率の高まりは、個人旅行が主流になってきたことと大きく関係する。
特に中・大型旅館では、これまで団体客主体で営業してきたところが多いだろうが、そうしたところでも個人客へ軸足をシフトしていくことが求められている。これにともない、販売の考え方も、今後は個人客を主体として捉え、団体客獲得の営業・販売は別扱いとして再構築する時期に来ている。
団体客に向けた商品アピールのし方と、個人客向けの見せ方では、ポイントが異なる。
最大の違いは何か?…それは「商品仕様(スペック)を明らかにする必要性の度合い」である。主として旅行社を媒介に誘致される団体客においては、商品の中身…具体的なスペックを事前に明らかにすることが求められるが、個人の利用においてその必要性はかなり低い。その典型が料理である。

②「商品=料理」の呪縛

旅行社がお客さまに旅館をあっせんする際の重要なファクターは料理献立であった。「旅館の商品=料理」という固定観念が旅行社に根付き、旅館の良し悪しの判断基準の大きなウェートを占めるまでになった。旅行社のパンフレットには、今なお各旅館の料理写真がズラッと並べられている。団体への提案にも必ず料理写真が添えられ、「お料理は○品出ます」、「○○も付いてます」といったことがウリにされる。
そして旅館の側でもいつしかその観念に束縛され、それに合わせることが当たり前となった。旅行社別の料理献立(写真)を用意し、また同じ旅行社でも企画商品や季節が変わるごとに献立を変え、料理写真を提出してきた。
しかしネットを通じた個人客へのアプローチが主流となりつつある今日、果たしてそれが必要なのかどうか、再考してみたい。
料理スペックを中心とした商品アピールや競争は、どうしても料理原価を高める方向に導く。また「献立の固定化」や「献立数の増加」は、調理場対応と料理提供の煩雑さによる現場効率の低下や混乱、食材価格の変動に対する順応性の阻害、材料ロスの発生といった弊害をもたらす。さらに、旅館全体の販売計画そのものが旅行社の商品造成や販売スケジュールを中心に組まれてきたことによって、むしろ必要性が高まっている個人客向けの商品整備や対応に後れをとるケースも多くなっている。この愚かさに気付かなければならない。
誤解を恐れず言うならば、個人客は料理の品数や献立によって旅館を選ぶわけではないのだ。

(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2016年3月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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