旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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「自分好み」で決まる個人型旅行(3)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
3.日常の利便を満たす
昔に比べて旅行は身近なものになった。かつて御馳走と言われたような料理は、飲食店などで気軽に食べられる。温泉も日帰り温浴施設で気軽に楽しめるようになっている。旅行に出かける際の服装は普段着であり、身支度も軽い。
また近ごろではネットとモバイル端末の普及で、交通、食事、立寄りスポットなど、旅先の情報が事前にかなり正確につかめるようになった。出発前からシミュレーションできるばかりでなく、出発してからでも、動きながら次の、そして動いてまたその次の必要な情報が、いともたやすく手に入る。
「サンダル履きで富士登山」――これはいくらなんでも行き過ぎだが、宿泊旅行に関してはその構え・備えはかなり軽くなり、特別なことではなくなった。特に個人型旅行は、気軽さにおいてもはや日常の延長線上にあると言ってよい。
こうなると、毎日空気のように使い慣れている生活の便利さが旅先にも求められるようになる。
例えばコンビニ。「近くにコンビニはありますか」といった質問が増えていないだろうか。また近ごろは携帯電話の電波だけでなく、Wi-Fi環境が備わっていないことへの不満も聞かれるようになってきた。
その他…
・トイレが洗浄便座付きでない。
・暑い(寒い)のに暖房(冷房)しか使えない。
・テレビを観ながら食事ができない。
・子供向け料理が良くない。
・冷蔵庫や自販機の飲み物が高い。
・スナック菓子、カップ麺、スイーツなどを好きな時に食べたい。
・枕元にスマホやタブレット端末を充電できるコンセントがない。
・布団では寝起きがつらい。
・浴衣ははだけてしまって寝にくい。
・おむつ替えをする場所がほしい。
日常生活で当たり前にできることができない、あるいはできるかどうかわからないことへの不満や不安が、じつはかなり多くなってきている。そして個人が宿泊先を選ぶ際、これらが決定要因となることもしばしばなのである。
ところが経営者自身、自分はそういう生活をしているにもかかわらず、自館でこのような不便があることに案外気がついていない、もしくは気にしていない場合が多い。
「これらのことに全て対応しましょう」という話ではない。対応したくとも、構造的な問題や費用などの関係でできないこともあるだろう。主義・方針としてやらないこともあってよい。ただしお客さまの感覚とあまりにズレが生じて、それに気づかないのは問題がある。また「旅館とはそういうところだ」「そんなことは旅館ではできない」と頭から決めてかかるのもどうかと思う。現実をきちんと踏まえた上で、ギャップがあればその「擦り合わせ」をしていくことが大切だ。
ホームページなどで、客室や寝具のスペック、館内の使い勝手、用意できるもの・できないものを明示しておく手がある。「○○はございませんが、その代わり…」として代替案を示し、こちらの姿勢や努力を伝えることもできる。主義・方針としてやっていることについては、堂々とそれをうたえばよい。(受け入れてもらえるかどうかは別だが…)
個人客の「不」を除く対応は、いずれ団体・グループ客にも通じる。場合によってはこうしたことへの対応姿勢が、新たな客層の掘り起こしにつながる可能性もある。
(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2015年10月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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