旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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変化する今こそ「私たちの行動指針」を考える(後編)
旅館・ホテルの経営戦略
~経営の羅針盤・ミッションステートメント~
5.ミッションとビジョンを達成するためには行動指針が重要
ミッションとビジョンが明確化されたら、次は行動指針を考えましょう。行動指針が明文化されることで、従業員は貢献するための行動ができ、自館のあるべき姿に向かっていくことができます。行動指針を作るにあたっては、ミッション、ビジョンから落とし込まれることが大切です。
また行動指針を導き出すにあたっては、自館のSWOT分析を行うことをおすすめします。自館の課題を事前に抽出することで、行動すべき道筋が明らかとなります。ぜひ以下のポイントから抽出してみましょう。
<行動指針を導くSWOT分析>
① 私たちは何を強みとして、市場機会をどのように生かすのか?
② 脅威に留意しながら、どのような差別化を図っていくのか?
③ 弱みの影響で機会を逃さない改善方法はあるか?
④ 弱点を理解し危機を未然に防ぐ方法はあるか?
ここで、行動指針(バリュー)の事例を見てみましょう。
<Google>
1. ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
2. 1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
3. 遅いより速いほうがいい。
4. ウェブ上の民主主義は機能する。
5. 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
6. 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
7. 世の中にはまだまだ情報があふれている。
8. 情報のニーズはすべての国境を越える。
9. スーツがなくても真剣に仕事はできる。
10. 「すばらしい」では足りない。
出典:Google 公式HP Google が掲げる 10 の事実
https://about.google/philosophy/
< THE RITZ-CARTON >
サービスバリューズ:私はリッツ・カールトンの一員であることを誇りに思います。
1.私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します。
2.私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。
3.私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にもたらすため、エンパワーメントが与えられています。
4.私は、「成功への要因」を達成し、ザ・リッツ・カールトン・ミスティークを作るという自分の役割を理解します。
5.私は、お客様のザ・リッツ・カールトンでの経験にイノベーション(革新)をもたらし、よりよいものにする機会を常に求めます。
6.私は、お客様の問題を自分のものとして受け止め、直ちに解決します。
7.私は、お客様や従業員同士のニーズを満たすよう、チームワークとラテラル・サービスを実践する職場環境を築きます。
8.私には、絶えず学び、成長する機会があります。
9.私は、自分に関係する仕事のプランニングに参画します。
10.私は、自分のプロフェッショナルな身だしなみ、言葉づかい、ふるまいに誇りを持ちます。
11.私は、お客様、職場の仲間、そして会社の機密情報および資産について、プライバシーとセキュリティを守ります。
12.私には、妥協のない清潔さを保ち、安全で事故のない環境を築く責任があります。
出典:ザ・リッツ・カールトン 公式HP ゴールドスタンダードhttps://www.ritzcarlton.com/jp/about/gold-standards
<帝国ホテル>
1.親切、丁寧、迅速
この三者は古くて新しい私共のモットーであります。
2.協同
各従業員は所属係の一員であると同時にホテル全体の一員であります。
和衷、協同もって完全なるサービスに専念してください。
3.礼儀
礼儀は心の現われ、ホテルの品位です。
お客様にはもとより、お互い礼儀正しくしてください。
4.保健
各自衛生を守り健康増進に努めてください。
5.清潔
ホテルの生命であります。館内は勿論、自己身辺の清浄に心がけてください。
6.節約
一枚の紙といえども粗略にしてはなりません。私用に供することは絶対に禁じてください。
7.研究
各自受持の仕事は勿論、お客様の趣味、嗜好まで研究してください。
8.記憶
お客様のお顔とお名前を努めて速やかに覚えてください。
9.敬愼
お客様の面前でひそひそ話や、くすくす笑いをしたり、身装を凝視することは慎んでください。
10.感謝
いつも「ありがとうございます」という感謝の言葉を忘れないでください。
出典:帝国ホテル公式 HP さすが帝国ホテル推進活動
https://www.imperialhotel.co.jp/j/company/csr/feature_02.html
Google はこの行動指針を「10の事実」として掲げています。適切な企業文化があるほうが、創造性のある優秀な成果が上がりやすくなると創業時より考え、この指針が作られたそうです。
リッツ・カールトンの事例は「12のサービスバリュー」として表されているものですが、実は14年前までは「20のベーシック」とされていたものを改定しています。クレドやモットー自体は変わっていないのですが、状況や環境を判断して指針を変えることもあり得るという事例です。すでに存在している指針があれば、今の経営環境に則した行動指針になっているか見直し、改定することも考えてみましょう。
また帝国ホテルの事例は、別に存在する行動指針とともに「帝国ホテル十則」として表現されているものです。従業員の行動規範を明確にしている点を参考にしてみましょう。
6.ミッションステートメントによる期待すべき効果
『マネジメント』の著書で有名な経済学者のドラッカー氏が、その著書の中で示した話があります。旅人が3人の石工と出会い「何をしているのですか?」と問いかけました。すると3人は以下のように答えたそうです。
1番目の職人は、「石切りをして生計を立ててるのさ」
2番目の職人は、「国中で一番上手な石切りの仕事をしてるんだ」
3番目の職人は、「歴史に残る大寺院を作っているんだ」
ドラッカー氏は3番目の職人をマネジメント能力を持つ人間としています。逆に2番目の職人は、自分はスペシャリストで重大なことをしていると錯覚しやすいとしています。私たちが、このエピソードから学びたいのは、3人の働く「目的」が違うことです。3番目の職人のもと、目的意識を統一できれば、従業員は同じ方向を向いて仕事に取り組むことができます。
例えば、「お泊りいただいたすべてのお客様が幸せになることが私たちの願いです」というミッションがあるとすれば、「ではお客様が幸せになるためにはどのような行動をすればよいか」という行動指針を考えることにつながっていきます。その結果、従業員は同じ方向を向いて、その指針に沿ったサービスを提供することが可能になります。ミッションとビジョンを明示し、行動指針を定めることの効果を、改めて考えてみてください。
社外に対する効果も同様です。ミッションステートメントを外部に発信していく最大の狙いはブランディング効果です。自館の提供する価値や使命が伝われば、顧客もそれを期待して集まります。提供するものと求めるものが一致することで、お互いに最高の満足を得ることになるというわけです。
ミッションステートメントはまず社内で浸透させなければなりません。一般的には旅館の事業規模であれば、その浸透スピードは速いと考えられます。社内への浸透を徹底し、ブランディングへの転換を図っていきましょう。
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