旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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旅行市場を握るシニア層(1)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
前回まで、今の旅館が置かれている労働環境を背景に、生産性を高めていく必要があること、10年後のすがたをイメージして経営を考えていくこと、そして生産性を高めるための二つの方向――すなわち「効果」を重視してパフォーマンス・アップを図る、削ぎ落とすべきコストの削ぎ落としに取り組む、といった大局的な課題について述べてきた。
今回からはもう少し視点を下げて、市場・商品・販売といった側面から、より具体的な対応を考えていきたい。
今日の旅館をとりまく市場の特徴を大きく捉えると、次の四つに集約できる。
1.高齢化の進展
2.個人旅行の主流化
3.インバウンドの急増
4.集客経路の変化(ネット化)
これらのうち、まずは「1.高齢化の進展」にともない注目すべき市場について考える。
1.シニア抜きには語れない国内旅行市場
2007年に「超高齢社会」となった日本では2014年、団塊世代がすべて高齢者の仲間入りをしたことで、4人に1人(約3300万人)が65歳以上、8人に1人が75歳以上になった。平均寿命、高齢者数、高齢化のスピードという3点において世界一、どの国も体験していない「超高齢社会」を10年近くトップで歩み続けているのが現在の日本である。
「健康寿命」(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)から見ても、人口比率の高い団塊世代を中心としたシニア層が、今後15年~20年程度は旅行市場のカギを握る大きな存在となる。旅館の市場としても着目すべき重要なターゲットである。
ただし、単純にシニアを「高齢者」として一括りにすることは避けたい。
団塊の世代を中心とした現60代のシニア層はアクティヴであり、様々な趣味を持ち、旅行に対しても自分の意思や主張をしっかり持っている人が多い。これら世代に対しては、その旺盛な活動欲・知識欲・体験欲・リッチ感欲求を満たすような提案、有意義な時間を過ごすための提案が求められる。
一方、身体に負担がかかってくる70代以上では、贅沢や無駄遣いを嫌う人も多い。友人同士での会話や、一緒に趣味を楽しむといった、人とのつながりを大切にするのがこの世代の特徴である。旅行においても、家族や仲間と同じ時間を楽しむことに重きを置いている。からだに負担をかけてまで遠地への旅行をするよりも、近場で何度もお互いの親交を深めることを求める人が多くなる。
また65歳以上の高齢者のいる世帯の4分の1が「単身世帯(一人暮らし)」であるということも考慮に入れておく必要がある。スーパーやコンビニ、さらにはネット通販などの業界が、こぞってこの新たに拡大しつつあるマーケットへの対応を始めている。車で買い物に行けない人から注文を受けて家まで届ける、毎日の食事を配達する、お店のない集落へ決まった時間帯に移動販売車で出向く、家事を代行するといったサービスだ。こうしたサービスモデルは必ずしも新しいものではないが、そこに対するニーズの裾野が、ひと昔前と比べて格段に広がっていることを理解する必要がある。
旅館は地域に根差す産業として、例えば周辺地域のシニアの集いの場、楽しみの場となる機能を発揮していく道などが考えられる。
繰り返すが、これからの国内旅行市場をシニア層抜きに語ることはできない。大切なのは、これらシニア層の人生に触れ、その立場でものを見て、それぞれの「思い」の実現をお手伝いするという観点で商品づくりのアプローチをしていくことである。
(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2015年8月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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