旅館経営の知恵
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お届けする経営のヒント-
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キャリアパス2
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
ジョブローテーションとの関連で、キャリアパスについて前回お伝えした。企業の中で昇進、昇格を果たしていくために積むべき経験や持つべきスキルを、ロードマップのように示すものである。実はこれは、業界全体で大きな課題となっている人材確保策と密接な関係がある。
弊社ではかねて、社員を「人手」でなく「人材」として捉えること、従って社員の確保も「人手の確保」から「人材の確保」へと見方を変えることを提唱してきた。これは言葉遊びではない。「人材」を「人手」と区分する一番のカギは「能力を育て、生かす」という点だ。このことを単なるお題目でなく、実質的なものにしていく必要がある。ここでキャリアパスが大きな意味を持つ。
キャリアパス構築の効能を、もう一度簡単に整理すると…まず企業にとっては、社員の能力開発や発掘がしやすくなり、レベルの高い人材の育成が可能になる。また社員の側では、人生にビジョンを描くことで目標ができるとともに、そのための努力を効率的に行うことができる。
キャリアパスの構築には、前提となるいくつかのサブシステムがある。資格等級制度、人事考課制度、教育研修制度、昇進・昇格制度、人事配置・異動制度、給与制度といったものだ。つまり本来、こうしたものが制度インフラとして整っていることが、キャリアパスを描くための土台なのである。別の見方をすれば、キャリアパスの仕組みは、「これら各種の人事制度と人材開発を結び付けるもの」と言ってよい。だからこうした制度が整っているところは、それらとのひも付けを図るよう考えると良いだろう。
ただ実際のところ、旅館でこのような制度が整備されているところはあまり多くない。では土台から作り上げていくのか…という話になるが、優先順位を考えたい。今急がれるのはキャリアパスを描くことなのだ。急ぐべき理由は、
(1)就職活動をする新卒者や中途応募者などには、すでにそういう知識がインプットされており、就職先を選ぶ際のポイントとなってきている
(2)ポテンシャルのある有望な人材に働きがいを与えて、その流出を食い止める必要がある
(3)(何度かお伝えしてきていることだが)部署―職務―人が固定化された枠組みでは能力の活用が進まず、これからの厳しい競争を戦えない―と三つある。
以上のようなわけで、いわゆる制度設計として、あまり難しく構えるのは現実的といえない。ではどうするか…例えば1人の新卒社員を念頭に、職業人生のコースイメージを描いてみること、またそれを図に表してみることである。いずれ総合的な役割を担うべき幹部候補生、特定部門の業務ディレクター、あるいは技能スペシャリストなど、いくつかのコースが考えられる。各種の制度は、それに合わせて整えていけばよいと思う。そして、より重要なのは、キャリア形成というものを「しっかり意識して運用すること」だ。社内外の研修、人事異動、スキルアップのための仕事を与えること、さまざまなプロジェクトに参画させることなど。こうしたことを計画的に行っていこう。またそれらの結果を経営に生かす情報とするため、社員一人一人の経験値を「能力マップ」に表すことが有効である。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2020年2月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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