旅館経営の知恵
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賃金制度の再設計 2
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
「賃金制度の再設計」とは、給与を「合理的で納得性ある」ものに変えていくことにある。その根幹となる「基本給」は、日本の企業では一般に「仕事的要素(仕事給)」と「属人的要素(属人給)」の二つで構成されるが、能力の発揮を期するためには、属人給の比重を下げ、仕事給の比重を高める方向が望まれる―ということを前回述べた。
ところで基本給以外の部分で、業績手当などの名目で業績連動型の給与を上乗せする仕組みを持つ場合がある。個人業績に連動させるやり方と、会社全体の業績に連動させるやり方とがある。
まず、会社全体の業績に連動させる場合―仮に「毎月」の業績を反映することを前提としての話だが、旅館には需要の季節変動があるから、毎月同じ物差しで業績を測ることはできない。一つの方法として、月ごとに異なる利益目標(売り上げよりも利益であろう。月によってはマイナスの利益目標となるかもしれない)を設定しておき、それを上回ったら一定額を社員に分配するやり方が考えられる。利益額のラインに応じて配分原資とする金額(あるいはパーセンテージ)を決めておき、その範囲で配分する。配分の方法や比率などもあらかじめ決めておくが、よりアクティブな運用を図るなら、原資の一部を貢献度や努力度により裁量配分できる枠として残しておくのも方法である。なお、利益配分を毎月行うのが困難であれば、賞与で行うことも考えられる。
個人業績との連動は、販売成績など、個人の成果が数字で表せる職種なら可能だが、旅館においてそれが当てはめられる部署はあまりないと言えよう。しかし給与の一部に成果―というか成果を上げる努力を評価する部分を組み込むことは可能である。
これらいずれも、人件費の総額は増やさないことを前提としている。従ってその分、基本給のベースは引き下げることが必要になる。
「合理的で納得性ある」給与体系とするのは誰のためか? 最終的には会社のためである。もらう側の社員としては、給与は多ければ良いのであって、ある意味で理由はどうでもよい。しかし会社として、誰にも望むような給与を出していたのでは、経営が成り立たない。
また、どう見ても自分より働きの少ない社員がより多くの給与をもらっているとなれば「不平」が生まれる。そしてそれは「不協」、ひいては「不和」をもたらす元なので、組織として避けねばならない。
年功尊重主義だけで給与を出していては、能力発揮を引き出す誘因とはならない。より力を発揮する人により多く配分した方が、会社として適切な資源配分となる。それを実現するために仕事の中身、努力、貢献、業績といった要素に対する報酬の比重を高めるのだ。そのような給与体系であることを理解させ、「だから頑張る」というインセンティブ効果を持たせることが肝要である。
ただ現実には、旅館でこのようなことが実現されている例はまだ非常に少数だ。これは、中小企業の一般的な傾向として言えることかもしれない。しかし、人手の確保が困難を極めている今、中小企業こそ、あるいは旅館こそ、このような給与システムに再設計していくことが求められている。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2019年9月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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