旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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配属人事
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
人に関する課題を考えている。今回は「配属人事」ということについて取り上げたい。
日本の企業では、伝統的に終身雇用と年功序列を前提に人事政策が行われてきた。基本的には新卒一括採用主義であり、配属は入社後に適性を見て決定される、一定の勤続年数を経て、配属部署における職務能力をある程度身に付けたところで昇格が行われる…というもの。また業種にもよるが、途中でしばしばかなり異なる仕事分野への「配置換え」もあり得る。
旅館は少し違う。必ずしも新卒採用主義ではない。むしろ中途採用が多数であり、その活用が積極的に行われてきた。新卒の採用が思うに任せないといった事情も背景にあるが、ある意味で世の一歩先を行っていたとも言える。女性の雇用という面でも同様だ。
もう一つの大きな違いとして、多くの旅館で職務の転換、部門間異動といったことがあまり行われてこなかったことが挙げられる。調理人として入ったら、ほとんどの場合、その人は一生調理人として過ごすことになる。おおむね接客係しかり、フロント係しかりだろう。しかし今日、この常識を外して考える必要性に迫られている。つまり「部門間人事異動」=「職務と所属部門の固定主義からの脱皮」を考えることである。なぜか?…次のような理由による。
(ⅰ)業務のマルチ化などから、人材資源のより立体的な活用が求められている。
(ⅱ)同様の背景から、部門を越えて全社最適を考えるスタンスが求められている。
(ⅲ)若い人にキャリア形成の道を示すことが求められている。
しかしなんといっても最大の理由は、これまでにない急速な変革(構造改革)が旅館に求められていることだ。マーケティング面においても労務面においても、である。かつて経営のことは、だいたい経営者(主にトップ一人)が考えていればよかったが、今はそれでは追いつかない。再三申し上げているように、改革にスピードが必要だ。それを実現するには、有能な人材を多数育て、頭脳力と戦闘力の総和を高めていかなくてはならない。社員に多くの部署を経験させていくことは、そのために有効なのである。
むろん職務の転換や部門間異動には障害もある。すぐに問題になるのは、転換や異動のたびに、新たな職務能力を一から養っていかなくてはならないこと、つまり現場の実務に必要な知識や技能の習得に時間がかかるということだ。もしかすると別の業務になじめない社員も出てくるかもしれない。しかしそれは覚悟の上で取り組んでみていただきたい。
他方で〈これは(ⅰ)~(ⅲ)の裏返しとも一部ダブるが〉、こうした人事政策の取り組みは、多能な人材を育てることができる、部門セクショナリズムを解消する道が開ける、全体を見渡してモノを考えるゼネラリストを育てることができる、将来幹部となった際に、いろんな部門の仕事実務が分かっているので説得力ある統率が可能になる―といった非常に大きな収穫が期待できる。遠回りに見えるが、それがいずれは強固な組織力、経営力を築くことになるはずだ。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2019年6月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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