旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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磨け! 独自価値(11)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
前回は、独自価値を育てるに当たり意識したいポイントについてお伝えした。そして「磨き続ける」上で、「価値のコンセプト」が鍵になると述べた。
価値のコンセプト
「価値のコンセプト」とは何か? それはモノではなく、モノやサービスによって実現しようとする「好ましさ」―快適さ、安らぎ、楽しさ、感激といったものであり、「お客さまに選ばれる理由」となるものである。
スターバックスは、お店を「家庭でもなく、職場でもない第3の場所(サードプレイス)」と位置付けて、客にとってオアシスとなるような店作りをしてきたという。
「おいしいコーヒーが飲みたいからスターバックスへ行く」という人が、果たしてどれくらいいるだろうか。コーヒーショップだから、コーヒーがおいしいことはもちろん大事な前提である。そしてスターバックスのコーヒーはたしかにおいしいが、とはいえ、どこよりもおいしいというわけではない(同社の元会長兼CEOハワード・シュルツ氏がそう言っている)。
しかし街路にオープンな店構え、センスの良い落ち着いた家具やインテリア、おしゃれなメニューアイテム、商品受け渡しの際のフレンドリーな応対などが一体となって、居心地の良い「第3の場所」という価値を作り出し、利用客に感じさせるものとしている。それが「選ばれる理由」になっている。
さて、話を旅館に戻そう。例えば「心地良い眠りのための枕」を購入したとする。この場合の価値は「枕」だが、より本質的には、枕によってもたらされる「心地良い眠り」にある。枕だけなら、同じものを競争相手が使い始めればそれで終わり。あるいはもっと高級な枕であっという間に逆転されてしまうかもしれない。近ごろでは、フロント周りに何種類かの枕を並べて、「お好みの枕をお選びください」という旅館やホテルもかなり見られるようになってきた。前回も述べたが、「簡単に実現できるものは、それなりに短い『価値寿命』しか得られない」のだ。
だが「価値のコンセプト」を「心地良い眠り」に置けば、視点も変わってくる。その価値をより高めるため、枕以外でできることは何があるか、と発想を広げることができる。そこを膨らませていくことだ。ピロケースの肌触り、布団、シーツ、安眠マスク、抱き枕、お休み着、気分を落ち着かせるハーブティーや音楽、アロマの香り、部屋の照明の色温度、お休み前のヨガ…。
社員みんなで知恵やアイデアを出し合ってみよう。またお客さまに聞くのもよい。「心地良い眠りのために、100人のお客さまに聞きました」…こんなやり方をすれば、ヒントをもらって、アピールもできて一石二鳥である。
眠りが一段落したら、「価値のコンセプト」を拡大して、「心地良い滞在空間」づくりに取り組むのも良いかもしれない。
このように理想を追求していくと、競争相手はもう付いてこられなくなる。またそうやすやすとまねもできなくなる。
だから「価値のコンセプト」をどこに置くか―そこをしっかり見定めた上で、磨き続けることである。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2019年3月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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