旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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平成の30年間、旅館をとりまく四つの変化
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
平成最後の年となった。ここしばらく「磨け! 独自価値」のテーマで話を展開してきたが、今回これを一休みして、区切りとなる年の初めにあたり、平成という時代を振り返ってみたい。
思えば平成の約30年間は、旅館業界にとっても激動の時代であった。この30年間で旅館を取り巻く環境に起きた変化を見渡すと、大きく四つの事象を挙げることができるかと思う。
第一は「団体利用の減少」である。社員旅行をはじめとする団体旅行が、「バブル崩壊」を境に著しく減少した。またあまり取り沙汰されないが、「接待需要」が減退したことも、この業界にとって大きい。そして「遊興宴会型」という利用スタイルがなくなったわけではないが、かなり影をひそめた。そのため非常に多くの旅館が、「団体から個人へ」とかじを切ることを余儀なくされた。しかしその結果として、「記念日旅行」など、新たな個人利用ニーズの掘り下げ、マーケットの開拓が進んだともいえる。
第二の変化は「ネット化の進展」である。「ネット予約」というものが旅館のチャネル構造―よりダイナミックに捉えれば「旅館と市場・顧客との関係」を劇的に変えた。ホームページに続いて、ネット予約サイト(OTA)と旅館の予約システムが登場。コミュニケーション媒体としてメルマガやブログなども活用された。そして近年、ユーザーの利用ステージはスマホとSNSへ移行し、一方でOTA間を横断的に比較するメタサーチといったものが台頭してきた。これらが「団体から個人へ」の動きと歩調を合わせるようにして、旅館の商売、販売のあり方を方向づけてきたといえる。この一連の変動プロセスが、平成という時代にほぼ重なる。
第三は「インバウンド需要の増加」である。国の「外国人旅行者の拡大戦略」は明らかな成果を生み、国内旅行需要が振るわない中で、旅館業界にとっても心強い追い風となっている。まだまだその手応えを実感できないところも多いかもしれないが、「玉突き効果」ともいうべき間接的な恩恵はどこかで受けていると思う。またかねてお伝えしていることだが、この波はいずれ必ず地方の隅々に浸透してくる。ただし一方で、需要の増加を目当てにホテルなどの新増設も急ピッチだ。インバウンドの増加が、そのまま自館の客数増加につながると安易に考えてはならない。また今後は、外国人旅行者の増加が宿泊利用スタイルや、旅館文化も変えていくことになるだろう。
第四は「労働力人口の減少」である。好景気も背景にあるが、労働力はとにかく「売り手市場」だ。大半の旅館が、かつてない人手不足にあえいでいる。これは平成の終盤近くになってにわかに浮上してきた問題だが、残念ながら平成が終わっても深刻の度はさらに増すだろう。このままいけば、5年後、10年後には働き手の不足で経営が成り立たなくなる恐れもある。「人材資源に対する扱いの変革」、またその前提となる「生産性の向上」は、死活を制する喫緊の課題と捉えたい。
「ではどうしていけばいいのか?」…引き続きそれを真剣に考えていきたい。次回は、再び「独自価値」のテーマに戻る予定である。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2019年1月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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