旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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生産性向上の大局観(4)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
伝統的な寿司屋は一般に値段が高い。ここに風穴を開け、庶民的な価格で楽しめるようにしたのが回転寿司だ。今からおよそ60年前に登場して、その店舗数はいまや上位10社だけで2千店を超える。そしてこの業態自体もさまざまなコンセプトに分かれ分化してきた。
商売モデルと生産性
「にぎりの徳兵衛」という回転寿司チェーンがある。これは「コロワイド」グループ傘下の「アトム」が東海地区を中心に展開する、同社寿司店の主力ブランドだ。この店のコンセプトは「本格的な立ちの寿司店の雰囲気で、旨い寿司を手軽な廻転(かいてん)寿司方式で、お値打ちに味わっていただく」というもの。寿司はやはりコンベアに乗って運ばれてくるし、注文はタッチパッドなので、伝票を付ける手間はなく、会計もスムーズだ。一皿の値段は百円台から数百円。回転寿司としてはいくらか高めだが、ネタの新鮮さや季節感、何と言っても職人が手で握る本格的な立ち食い感覚に人気がある。
前回、労働生産性向上の抜本策として、旅館でも「機械化」「自動化」を考えるべきことに触れた。伝統的な寿司屋として商売するなら、相応の高い付加価値を上げる必要がある。寿司を「製造する」という観点だけで見れば、寿司ロボットでドンドン作るのが効率としては良い。そして「にぎりの徳兵衛」のようにその中間でいくやり方もある。
話は変わるが「住宅宿泊事業法」、いわゆる「民泊新法」が今年6月ついに施行となる。私たちはともすると「民泊」だけに目を奪われがちだが、同時に「旅館業法」にも大幅な改正が行われ、旅館やホテルの適法要件が多方面で緩和されることにも注意を払っておく必要がある。一例を挙げれば、玄関帳場やフロントがなくてもよくなるのだ。つまり宿屋商売は、「簡易宿所営業」も含め、なにも制約の多い「民泊」にこだわらずとも、いろいろと自由な営業形態が選択できることになる。
これら法律の施行に伴い、異業種から宿泊業界へのなだれこむような参入がすでに始まっている。異業種とは、不動産(デベロッパーおよび賃貸業)、住宅メーカー、電鉄、コンビニチェーンといったものだ。ホテルと住宅の中間に位置する「ホテル仕様のマンション」といったものも計画されている。これらを流通させるのは、ネットのプラットフォームや巨大な店舗網による情報集約、予約・決済、チェックイン管理などのシステムだ。
これら事業者の宿泊ビジネス視点はまさしく「不動産商売」と言ってよい。そして徹底した省力化、省人化が図られる。「宿泊機能の提供」だけに限れば、労働集約的な部分はハウスキーピングぐらいであり、これも清掃会社などへの委託によって賄われる。こうした施設の多くは比較的廉価で売られることになると思うが、労働生産性は高く、一定の稼働さえ上がれば十分な収益が見込めるソロバンがはじかれている。
旅館はこれから、こうした商売とも競争していかなくてはならない。生産性に対する正しい理解と果敢な省力化投資、そして何よりも「顧客価値」をしっかり見据えた商売モデルの練り直しが求められる。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2018年5月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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