株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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業務効率化への取り組み(18)マニュアル改訂と管理

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

マニュアルを単なる「飾り物」にしないため、定期的な見直しと改訂をするべきであることを前回の提言で述べた。マニュアルそのものの機能を有効に保つのはもちろんだが、実はこの改訂作業を現場の社員にやらせることで、四つの大きな果実を生む。それは…見直し意識の形成、思考能力の育成、モチベーション形成、マニュアル尊重マインドの醸成である。

マニュアル改訂で人を育てる

「見直し意識」とは、今ある「常識」に疑いの目を向け、「より良いやり方があるはず」という前提に立つ、またそれを求めていこうとする意識である。以前述べた「マニュアル絶対主義」や「考えない症候群」の予防にもつながる。「思考能力」については言うまでもあるまい。やり方や仕組みを考える、それらの伝え方を工夫する、記述していくといったプロセスは、平常の業務では得難い思考経験となる。「モチベーション」とは、会社としてのルール作り、線路を敷いていく作業に自ら関わることに対するやりがい、自信、プライドといったものである。さらに共同作業を通して一体感も生まれる。「尊重マインド」とは、「自分たちで決めた」という認識から自然に生まれる、内容を尊重しようとする気風である。いかによくできたマニュアルでも、現場がそれを心で受け入れなければ意味がない。受け入れるマインドはマニュアルの死活を分けるのだ。

 

訓練には、現場の仕事を通じて行うOJTと、現場を離れた研修OffJTの2種類あるが、マニュアル作りの作業はその両方を兼ねたようなものになる。マニュアル作りは最高の研修になるのである。一方、マニュアルは、最初に作る時もそうだが、改訂作業も社命でなければなかなか行われない。そんなことをしなくとも、日々の現場業務は流れていくからである。従ってこの作業は課外活動のような扱いでなく、社命で、勤務時間内業務としてしっかり位置付けたい。そしてその成り行きに経営者が関心を寄せ、成果を認めてあげることだ。そうしてこそ、前記のような効果も期待できる。

 

社員の能力を高めるにはどうしたらよいかとか、やる気づくりをどうするかとかいったことが多くの旅館で課題になっている。とりわけ昨今、ここに社員の確保・定着といった問題がからんで、頭を悩ましている経営者も多い。であれば、マニュアル作りや改訂の作業を、ぜひこうしたことの対策としても考えてみていただきたい。

 

 

現場のマニュアルも組織的に管理

各現場には、その場その場の作業をスムーズに行うための手順書のようなもの―いわばマニュアルが、自然発生的にけっこうある。また例えばアンケート検討会議などで取り上げられた問題に対処するため、「では今後の改善のため、そのやり方を整理しておくべし」と担当部署の責任者に指示があり、それに従って同様のものが作られることがある。ところが多くの場合こうしたものは、その存在が正式なマニュアルとして認識されないために、作りっ放しでお蔵入りになっている。何年か経って担当者が替わると忘れ去られ、時には後任担当者がまた同じようなものを作ったりしているケースも多い。これではせっかく作ったものがもったいない。現場レベルで作ったものでも組織的に管理しておき、担当者や管理者が交替の際はしっかりその引き継ぎをすることが大切である。

 

 

 

(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)

 

※当記事は、2017年6月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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