旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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業務効率化への取り組み (10)検査工程
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
作業レベルで見た場合の工程は「加工」「検査」「運搬」「停滞(あるいは貯蔵)」の四つに分けられ、うち「加工」だけが付加価値を生む工程である、と本連載の〈業務効率化への取り組み(4)〉でお伝えした。そして旅館の作業では「運搬」が大きな比重を占めることから、以後数回にわたり、「運搬(人の移動を含む)」について考えてきた。残る二つの付加価値を生まない工程―「検査」と「停滞(貯蔵)」については、旅館の生産性を考えるにおいて重要度がさほど高くないことからいったん棚上げしていたが、ここでこれらについてもふれておきたい。
検査工程
検査自体は品質管理の領域だが、業務効率化の観点で見るならば、「いかに効率よく検査を行うか、あるいは省くか」といったことになる。旅館では「チェック」と呼んだ方がなじみがよいかもしれない。
対象となるのは、お客さまに提供するモノである。代表的なのは客室の清掃や物品のセット状態、および料理であろう。
(ⅰ)客室
アンケートで問題が指摘されたり、トラブルが発生したりすると、しばしば「ではそういうことのないよう別の人がチェックしよう」という話になる。あるべき品質を確保する対策としてそれは正しい。またそうした方が欠陥は少なくなるだろう。しかしそこでわざわざチェックという「工程」を増やすべきかどうかは慎重に考えたい。それ以前にやるべきことがある。
客室に限らず、旅館がお客さまに提供するモノは機械で製造されるわけではなく、ほとんどが人の手によってセットアップされるものだ。だからその作業に携わる人がその都度確実に行っていれば、そもそも第三者チェックなどする必要はない。
方法は…
(イ)「作業の内容」と「仕上がりの状態」をきちんと定めること、
(ロ)それを守るよう徹底を促すこと、そして、
(ハ)作業者本人に「セルフチェック」を義務付け、仕上がりに責任を持たせることだ。
これによって「別の人がチェックしてくれる」という緩い意識も排除する。
ただし人のやることに「落ち度」は付き物である。毎日同じ作業を繰り返していれば、セルフチェックにも無意識のうちに手抜きが生じる可能性はある。これを防ぐ対策としては「抜き打ち検査」を行うとよい。同じ検査でも、毎日全客室について行うのと、抽出して行うのとでは業務のボリュームは全然違う。
それでもなお「100%」というわけにはいかないだろう。完璧を期すなら再度の「チェック工程」を設けるのもよいだろう。だが誤解を恐れず言えば、「不良」の発生率やそれに対する許容度合いも現実問題として考えたい。
自館のグレード、よりストレートに言えばお客さまからいただく料金によりけりと割り切るべきであろう。
(ⅱ)料理
料理の「不良」の主なものは「異物混入」と「盛り付けのくずれ」である。
異物混入を完成した料理から発見するのは至難であり、検査で防ぎきれる問題ではないが、毛髪などはしばしば盛り付け時や完成後に入るケースがある。
また盛り付けのくずれは運搬中などに起こるものなので、配膳や提供サービスの最終段階で異常がないか目でチェックするのが有効だ。
すなわちこれも別の作業と同時並行で行うことである。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2017年2月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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