旅館経営の知恵
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利用ニーズの変化と対応(4)客室タイプの展開
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
旅行社送客に大きく依存していた時代には、「送客側の都合」として多数の同一規格の部屋が必要であった。その方が、タイプごとに異なる客室のスペックをこと細かに確認したり、部屋割りに神経を使ったりといった難しいことを考える必要がない。また同じグループの中で「あっちの部屋は次の間があるのに、こっちにはない」というような不公平感が生ずる心配もない。 同じことは「旅館側の都合」としても当てはまる。部屋タイプは統一されていた方が、あらゆる面で余計な手間やコストがかからない。そして昔はわざわざタイプを変えずともそれで十分であった。
客室タイプの展開
何度も申し上げているように、昨今は団体旅行の数が減って個人客が中心となってきている。団体向けに同じタイプの部屋を数多く用意しておくことの意味があまりなくなってきている。統一された部屋タイプは、今日でも中・大型旅館ではある程度求められるが、かつてと比べて、その必要性はかなり低下してきたと言える。
そこで考えたいのは、画一的な規格の部屋をそろえるより、あえて部屋のタイプを変化させてバリエーションを積極的に増やしていくことだ。客室タイプの展開も、戦略的に考えていくべき時代である。具体的には、次のような展開が考えられる。
・間取りによる展開…和室、和洋室、洋室、スイートルーム、メゾネットなど。
・利用人数による展開…2人利用を基本とした客室、多人数を想定した大部屋、1人部屋など。
・付設機能による展開…露天風呂付き、ミニバー付き、ホームシアター付き、マッサージチェア付きなど。
・家具による展開…ファッション性の高い家具、快適性を追求した家具、ムードや高級感重視の家具など。
・内装テーマによる展開…自然環境、地域文化、建築文化、デザイナー、キャラクター、映画など。
・バリアフリー客室。
・スマートな食事提供が可能な客室。
これらを適切に組み合わせて市場環境への適応を図るのだ。場合によってはこのうちのどれかに特化して、フロアまるごと、あるいは旅館まるごとのコンセプトとするやり方もある。
ついでに言うが、そもそも大半の旅館において、すべての客室が必ずしも同じ条件を備えているわけではない。ロケーション、間取り、設備機能など、いろいろな面で異なる場合が多い。それらすべてに単一の物差しを当てて、「標準タイプの部屋」と「そうでない部屋」などと無理やり振り分けてしまうことがナンセンスではないか? 部屋の個性を長所として引き出すことも併せて考えたい。
・眺めの違いによる展開…海、山、夜景、庭など。新たに眺めをつくることも視野に検討。
・館内の位置による展開…角部屋、一番奥、海にすぐ出られる、エレベーターから近い、大浴場に近い、自販機に近いなど。
館内の一番奥まった、半地下のようなわかりにくい場所にある客室を、あえてそれを逆手に取ったネーミングで販売に成功している例もある。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2016年7月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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