旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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将来顧客を育てる(1)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
①社員旅行の減少
今回は少しマクロな視野から入る。
1991年から93年ごろにかけて、わが国は「バブル崩壊」というものを経験した。実体経済とかけ離れて膨れ上がったわが国全体の資産価値が一気に萎み、日本経済はこれ以降、途中に「リーマンショック」をはさんで、20年余りの長い景気停滞にあえぐことになった。
「バブル崩壊」という言葉自体、すでに多くの若い世代にとって、遠い歴史上の出来事となったが、これによって旅行関連の市場にもさまざまな変化が生じた。
その大きなひとつは、「社員旅行」が急減したこと。これを、単に一利用形態の減少としてだけ捉えるのは間違っていると考える。
社員旅行は、かつて若年層が旅館利用を経験する、いわば「入口」だった。旅館にまだそれほどなじみのない多くの若年層が、会社に入って社員旅行という「団体旅行」に参加することで、旅館、温泉、宴会、浴衣といった「文化」の洗礼を受け、旅館というものに親しんでいった、そしてレジャーの対象として意識に刻み込んでいったと言える。
この経験機会の大幅な減少で、旅館利用行為が若年層にとって少々縁遠いものになってしまったことが否めない。「バブル崩壊」当時20歳前後だった人が、今40代である。
近年、「若年層のカップル旅行」とか「女子会」などの新たな利用切り口も多くなった。これはこれで新しいマーケットニーズの引き出しに成功したといえる。ただしこれらの利用スタイルは、多くの旅館にとって利用形態のほんの一部に過ぎない。
家族やグループでいっしょに食事をする、仲間どうしで風呂に入る、酒を酌み交わす、何かのお祝いをする、親睦を図るなど・・・まだまだいろいろあるはずなのである。これから先、このような幅広い利用ニーズも保持あるいは拡大していきたい。そのためには、常に若年層を将来の顧客として取り込み、自館における彼らの「利用場面」を育てていく工夫が求められる。
②人生との関係を持つ
そこであらためて「ライフステージ」というものに着目してみたい。ライフステージとは、人生における様々な場面・時期である。どんな場面・時期があるか? わかりきったことではあるが、再認識のためあえて挙げてみる。
誕生▽七五三▽保育園・幼稚園入園▽小・中・高・大学への入学や卒業▽就職▽恋愛▽成人▽結婚▽妊娠▽出産▽子供の温泉デビュー▽ファミリー活動▽転勤▽転職▽引越し▽マイホーム取得▽誕生日▽結婚記念日▽定年退職▽三世代・・・
若年層を中心とした顧客の取り込みを図るには、これらのライフステージに関わりを持っていくことが強力な足掛かりとなる。
「ライフタイムバリュー」(顧客生涯価値)という言葉がある。一人のお客さまの購買(利用)を、その時限りのものとして考えるのでなく、生涯にわたり何度も利用してもらい、自社にとってのお客さまの価値を何倍にも大きくしようと捉える発想である。そのために顧客との「関係づくり」というものを大切にする。顧客を育てるということは、顧客との関係を持ち続けるということである。
旅館にも同じことが言える。否、旅館にこそ言える。なぜなら旅館は、人生や生活のいろんな場面に関わることができる商売なのだから。
(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2016年1月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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