旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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インバウンドへの対応(1)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
今日の旅館をとりまく市場の大きな特徴として、1.高齢化の進展、2.個人旅行の主流化、3.インバウンドの急増、4.集客経路の変化(ネット化)の四つを挙げた。 このうち、今回はインバウンドについてお伝えする。
1.地方へ波及するインバウンド
かなり騒がれているインバウンド市場だが、これまでのところ外国人観光客が訪れているのは、東京周辺や京阪神などの大都市圏が大半である。これら大都市ではすでにホテルなどの客室不足が問題となっている。しかし地方、とりわけ温泉観光地などリゾートにおいては、一般にまだまだその恩恵に浴しているとは言い難く、インバウンドに対する手応えや期待は、地域によってかなり温度差があるというのが実感である。
ただ地方でも、ここへきて伸び率ベースではかなり急速な変化が見られるようになってきている。
観光庁「宿泊旅行統計調査」の数字から、外国人延べ宿泊客数の「伸び率」を都道府県別で見ると、前年比で30%以上伸びたところは、2013(平成25)年に19道府県、2014(平成26)年に17都府県だけであった。しかし2017(平成27)年1~7月期には、福島県を除く全都道府県で前年同期比30%以上となっているのだ。100%を超える伸び率(つまり前年の2倍超)となった県もいくつか出てきている。実数こそ地方ではまだ少ないとは言え、インバウンド客の波は着実に及んできていると言える。
外国人客の大都市集中傾向は今後も続くだろう。日本人が海外旅行をする際、アメリカならニューヨーク、フランスならパリ、イタリアならローマをまず選ぶのと同じである。しかし、日本人が2回目、3回目の旅行となった時、いつまでもニューヨークやパリばかりでないのと同じように、彼らもいつまでも東京、大阪、京都ばかりではない。わが国全体としての増加傾向が今後も続くとすれば、外国人観光客の波は今後しだいに地方へも間違いなくやってくるはずなのである。
2.インバウンド客への不安
しかしそれでもなお、インバウンド客に対する構え・対応は、旅館によってさまざまだ。それなりに外国人客利用はあるが、どうしたものかと対応判断に戸惑っているケースも多い。それは一般に、1室2名利用になる、(これまでのところ)料金が安い、といった理由も挙げられるが、それ以上に不安視されているのが、外国人客が多いことによる「日本人客離れ」ではなかろうか。
よく聞かれるのが「大声で話す」、「マナーをわきまえない」といったことである。ツアー団体はどこの国でも多かれ少なかれ似たような傾向があるのであり、また少人数なら気にならないが、団体だから目に付くに過ぎないということも多い。しかしそういうことによる日本人客への影響を懸念するなら、まず外国人ツアー団体(国にもよるが)を一定比率以下に抑えるしかあるまい。
大浴場での入浴マナーなどもよく言われるが、こうしたことは日本旅館の文化を守る意味でも、こちらの流儀に従ってもらうよう注意を呼びかけていくべきだろう。入館後は表示や案内物などに頼るしかないが、添乗員などを通じて事前にバスの中で注意事項を伝えてもらうようにする方法もある。
外国へ旅をするのに、わざわざその国の人に嫌われることを好む人はまずいない。お互いの良き関係のため、こちらがしてほしくないことを礼儀正しく伝えていけば、理解してもらえるはずである。そういうことも、じかに外国人客のもてなしに当たる旅館の、「親善大使としての使命」と言っては大げさだろうか。
(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2015年12月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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