旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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旅館のユニバーサルツーリズムへの対応(第三回)
接客現場のオペレーション
前回のコラムに引き続き、ユニバーサルツーリズムにおける宿泊施設の役割と実践について考えていきます。
対応の心構え
ユニバーサルツーリズムへの対応というと、車いすが通りやすいように段差をなくす、目の見えない方のために点字をつけるといった施設の整備がまずイメージされるかもしれません。しかし、一口に障害といっても、視覚の障害、聴覚の障害、手や足の障害、知的な障害といった多様な障害の形があります。また、その障害の程度も人それぞれに異なります。さらには、障がい者だけでなく、高齢の方や、乳児、妊婦、外国人といったさまざまな方まで対象と考えるならば、施設の整備だけで完璧に対応しようとするのは、現実的ではありません。
では、どうしたらいいでしょうか。
ポイントは「コミュニケーション」です。
高齢者や障がい者といった方々も、常に手助けを必要としているとは限りません。困っていることがあるのか、困っていることは何なのかは、それぞれに異なります。コミュニケーションをとり、適切な配慮をしていくことが重要です。
必要以上の手を差し伸べると、かえってその方の尊厳を損なってしまう場合もあります。
事例に基づく対応ポイント
いろいろと難しい対応が求められるのではないかと考える方もいると思いますが、まずはできることから始めることをおすすめします。
ここではお客様の滞在場面ごとに合わせて、旅館で実践されている事例をご紹介します。あらゆる場面を網羅しているわけではありませんが、それぞれ「こういう場合もある」「そこではこんな考え方をすればよい」という意味で参考にしてください。
【チェックイン‐ご案内】
チェックインからご案内の場面は、旅館に対するお客様の第一印象に繋がります。第一印象を崩してしまうと、その日の滞在の全てを台無しにしてしまう可能性があるので、ポイントを押さえ、しっかりとした受入態勢を築いておきましょう。
a)椅子に掛けたままでチェックインできるようにする
高齢者や、妊婦の方、足の悪い方への配慮として、椅子にかけたままのチェックインができる環境を整えることをおすすめします。
ある旅館ではチェックインカウンターを低くし、椅子を用意して座りながらチェックインができる環境を整えています。椅子を動かせば車いすの方も簡単に手続きができます。スタッフも座りながら作業ができるため、負担軽減にもつながります。しかし、チェックインカウンターを造りなおすのは大掛かりすぎる場合もあります。
その場合、配慮が必要な方に対してはラウンジでのチェックインに切り替える、記入用の簡易なテーブルを用意するなどの方法も考えられます。
b ) 指差し確認のできるチェックインカード、館内案内を作成する
聴覚に障害のある方や外国人など、言葉でのコミュニケーションが難しい方に対し、筆談や翻訳機を使ってコミュニケーションをとっている施設は多いと思いますが、これに加えて、朝夕食の時間や、アレルギーの確認といった、チェックイン時に決まって伝えるべき(確認すべき)ことは、指差しをしながら確認できるカードや館内案内を準備しておくとよいです。これにより手続きの時間も短縮され、業務の効率化につながります。
c)館内の様子や見える情景を丁寧に伝える
視覚に障害のある人も、その旅館の雰囲気やそこから見える景色を感じたいと思っています。スタッフはそのことを理解し、丁寧に説明をしていきましょう。
「その窓から見えている景色は何なのか」「そこに置かれている調度品はどういうものなのか」を言葉で伝えることで、その旅館の雰囲気を味わっていただけます。
ある旅館では、言葉だけでなく触っても感じていただけるよう、壁の装飾である組子細工を、触れる組子パネルで製作しています。日本の伝統工芸品である組子細工のひとつひとつ意味のある模様を、手で触れて感じてもらうための工夫です。
次回は引き続き事例に基づく対応ポイントについて考えていきます。
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