旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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旅館のインバウンド対応(第4回)
旅館・ホテルのインバウンド対策
前回に引き続き、訪日外国人観光客に自館が選ばれやすいか、考えていきましょう。
2.外国人観光客の特性を踏まえたターゲット設定と仕掛け
(3)日本文化や伝統に関心が高い層
前項で取り上げた調査結果で、「日本の歴史・伝統文化体験」は、「今回したこと」「次回したいこと」いずれでも25%を超えています。4人に1人と考えれば、少ない数ではありません。海外旅行の醍醐味のひとつとして「異文化体験」をあげる人は多く、東京都内でも「茶道体験」「着付け体験」など、様々な体験の場所が設けられています。
訪日リピーターの中でも歴史や伝統文化に関心が高く、手軽な体験は既に済ませた人々の中には、再来日の際には、より深く歴史・伝統文化に触れたいという思いを抱く人も出てくるはずです。そしてそうした欲求は、遠方まで足を運ぶ動機になります。「茶道」「着付け」「書道」など、都市部と同じ体験プランを用意するだけは、残念ながら来館の強い動機にはならないでしょう。では、地域の独自性に着目し、「異文化」感を味わえるものには何があるでしょうか。
1)伝統芸能
地域に根差したもののひとつに「伝統芸能」があります。「伝統の踊り」や「太鼓の演奏」などを定期的に実施している施設も見受けられますが、それらの価値をもっと高めていくことが重要です。例えば、衣装や踊り、演奏内容に込められた意味やその歴史を語ることができれば、単なる「余興」ではなく価値あるイベントになります。
ハワイのファイアーダンス、バリ島のケチャダンスなどのように、「その土地に行ったら是非見ておくべき」と言われるものになれば、地域の強みにもなります。
2)祭り体験
地域の伝統文化を伝えるものとして「祭り」も挙げられます。ユネスコ無形文化遺産に登録されているような大規模な祭りだけでなく、小規模なものでも外国人観光客には興味深いものに映ります。また、年に1度の祭りそのものを体験できなくても、疑似体験できるイベントを催す方法もあります。
ヨーロッパ東部に位置するブルガリアは、香水の原料となるバラの産地で、世界的な高級ブランドの香水の原料に多く使われており、その産地であるブルガリア中央部「バラの谷」では、例年6月には世界中から観光客が集まる収穫祭「バラ祭り」が行われています。そして、この地域では、観光客誘致のために、予約制でグループごとにお祭りの内容を体験できる「プライベート・バラ祭り」というものが企画されています。
参加者が会場となる村へ到着すると、民族衣装を着た村人たちが音楽と歌で歓迎。畑でのバラ摘み体験、歌と踊りの見学、伝統の料理やお菓子の試食などが楽しめる内容で、中でも村人との交流は印象深い旅の思い出になっています。実は、この企画は日本のJICA(国際協力機構)が行った地域振興プロジェクトが発端で、日本が住民参加型の地域振興策のノウハウを伝え、行政と住民が一体となって進められた取り組みです。
日本国内でも、館内への山車の展示や、祭りの再現イベントの定期的な実施など、「祭り」を全面的にアピールポイントにしている宿泊施設が登場していますが、仮に施設単体での実現が難しくても、地域と連携することで実現できるものもあるはずです。また、山車や神輿、お囃子といった派手なものでなく、「プライベート・バラ祭り」のような素朴なものでも、海外からの注目を集める可能性があるのです。
「プライベート・バラ祭りの様子」画像提供:ユーラシア旅行社
ここまで、「伝統芸能」や「祭り体験」について、地域や自館を訪れる動機作りとして取り上げました。このような大掛かりなことはできないという場合、以下のような「ちょっとした体験」も、宿泊先選びの決め手や、滞在の満足度アップにつながる可能性があります。
・和室に布団を敷いて寝る
ベッドでの生活が当たり前の人にとっては、まさに異文化体験です。
「敷く、たたむ」も体験の要素になります。
・急須でお茶を淹れる
「茶器セット」自体が外国人客にとっては珍しいものです。「急須でお茶を淹れる」ことは、特別なパフォーマンスになります。
・色浴衣の着付け
色浴衣サービスをしている宿泊施設は多いですが、外国人客は着る方法がわからないはずですので、何らかのサポートが必要です。
スタッフが立ち会って体験のサポートをすることが難しい場合も、説明をイラスト入りで書いたものや動画を用意しておくことで、体験の機会の提供が可能です。
訪日外国人の個人旅行客に「海外旅行中の滞在先」として選ばれるためには、単なる宿泊機能の提供だけでは競争力がありません。
世界中にリゾートホテルを展開し、多くのファンを獲得しているアマンリゾーツを特集しているサイトには、以下のように謳われています。
「アマンがリゾートを造る上で大事にしているのは、地域との関わりやその土地の文化を尊重すること。その土地ならではの体験が出来るのもアマンの魅力でもあります。」
特別な時間を過ごせるという安心感のあるブランド価値を確立できているからこそ、世界各地で選ばれる宿泊施設になっているのでしょう。
「海外旅行をより充実するものにしてくれる宿泊施設」であると認識してもらうためには、自館の独自価値を生かし、どのような時間を過ごせるかを明示していくことです。
◆リョケンでは、宿泊施設のインバウンド受入支援プログラムをご用意しています。
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