株式会社リョケン

旅館経営の知恵

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「自分好み」で決まる個人型旅行(1)

コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」

今日の旅館をとりまく市場の特徴として、本コラムの〈旅行市場を握るシニア層(1)〉で次の四つを挙げた。

1.高齢化の進展
2.個人旅行の主流化
3.インバウンドの急増
4.集客経路の変化(ネット化)

今回は「2.個人旅行の主流化」について考えたい。

個人において、購入の意思決定は比較的早い。たとえ周りの人が価値を認めていなくても、本人にとって価値があるものであれば、迷わず購入するというのが現在の消費スタイルである。「自分好み」を基準に購入が決まる。これを「一人称の消費」という。

1.細やかな対応とスピードが勝負

 個人旅行は、当たり前だが「個人の意思」によって行われる。このため、次の2点において幹事や旅行委員のいる団体・グループ旅行と決定的に違う。
 1)動機や選択理由が「個人的」である。
 2)従ってかなり「気まま」である。
 「個人的」とは、別の言い方をすれば「集団の最大公約数ではない」ということである。団体・グループの旅行ならば、ある程度「意見の一致するところ」でものごとが決まるが、個人旅行はそうではない。「自分」が良ければそれで良いのである。
 個人といえども大多数は「普通の」対応で十分だが、一方で「自分好み」の隠れたニーズが膨らんできていることにも目を向けていきたい。「自分好み」の旅にはいろいろある。
 収集・製作・撮影・園芸・○○巡り・体験…果ては「~マニア」「~フェチ」といわれる強いこだわり意識までが、旅行動機や目的地などの選択理由になる。これらに真面目に向き合っていくには、かなり細やかな対応が求められる。
 そんな一人ひとりの好みに合わせていたら、採算に合わないし、いくら対応してもきりがない、ということになる。しかし裏返せば、こうした「自分好み」の機微に触れる対応をしてくれるところはそう多くはないので、求めている人にとっては非常にありがたい存在となる。また同種の好みやこだわりを持つ人は全国的に見ればたくさんいる。だから自館の特性に合わせて商品を用意し、これらを拾い上げていくのもひとつの生き方であり、新たな商機となる。インターネットの時代なればこそ、それが可能なのだ。
 個人旅行のもうひとつの特徴―「気まま」は、「計画的でない」に通じる。
 ネットを使えば「自分好み」の旅が容易に検索でき、先行して経験した人の意見も見ることができる。スマートフォンやタブレット端末の普及により、いまやどこにいても、宿泊の当日であっても容易に予約をすることができる。
 個人旅行では特にそのような行動変化が著しい。モバイル端末の行き渡った今は、それまでとは「時代が違う」という認識が必要なのである。
 そこで旅館側としてとるべき対応だが、商品アップ・販売停止・販売室数など、毎日細かな管理をすることがまず重要である。販売期間の終わった企画がアップされていたり、うっかりオーバーブッキングとなるようなケースがしばしば見受けられるが、これでは販売の拡大はおろか、お客さまの信頼を失うことにもつながりかねない。
 「細やかな対応」、「スピード化」を図るには、ネット担当者を増やすことも考える必要がある。クチコミ返信や予約処理だけに追われていては、タイムリーな商品造成をする余裕もなく、販売機会を失ってしまう。自館の状況をいま一度確認しておきたい。
 今後、ネット予約の比率がさらに高まることは間違いない。クチコミや問合せなどへの対応にも、「細やかさ」と「スピード」とが求められ、しかもそれらがお客さまの評価に直結することを心得ておく必要がある。

(株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)

※当記事は、2015年9月に観光経済新聞に掲載されたものです。

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