旅館経営の知恵
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お届けする経営のヒント-
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旅館の「DX」を考える 3. ITシステム導入の考え方(前編)
旅館・ホテルのデジタル活用
「新たな時代に向けた変革のためにデジタルを活用する」というDXの考え方に基づき、ITシステムの導入を進めるためには、まず自社・自館が目指す姿=将来ビジョンを打ち立てることが必要です。新たなビジネスモデルの構築や新時代の宿泊施設づくりといった大きなテーマは掲げられないとしても、少なくとも、「なぜ、DXに取り組むのか」を明示する必要があります。
(1)目指す将来ビジョンを示す
例えば、「少ない人員で、サービスを高質化させ高収益を目指す。そのために、接客や営業に時間が取れるよう、人が行うことが付加価値に繋がらないものはシステムを最大限活用する。」
というような目指す方向性を言葉にするだけでもよいのです。システムを活用した宿泊施設というと、「無人ホテル」をイメージしてしまうスタッフもいるかもしれません。
「人によるサービスや営業を重視する」のであれば、その大前提を明確にしておかないと、目指す方向を誤る可能性があります。全社員が、将来ビジョンを共有し、何のためにITシステム導入や入替えを行うのかの共通認識を持たなければ、本来の目的の「変革」に繋がりません。
(2)誰でも簡単に使えることを前提にする
IT化というと「年配のスタッフには無理」という声がよく聞こえてきます。では、年配のスタッフの方は、日常生活でシステムを一切使っていないのでしょうか? 銀行のAATM、駅の券売機、既に日常生活の多くの場所でシステム化が進んでいます。
そして、そういったシステムは、「すべての利用者にとって操作がわかりやすい」ことを前提に作られています。これまで、ビジネスで使うシステムは、「パソコンを使えないと仕事にならない」として、使いこなすためのスキルは個々人が努力して身に着けるべきという風潮がありました。
しかし、今やオフィスでの仕事に留まらず、様々なIT機器やシステムの利用が幅広く想定されています。人手不足の現状を考えれば、ITリテラシー(IT技術を自分の目的に合わせて活用する能力)が高くなくても簡単に操作ができるシステムを選定することは必須条件です。
日常生活でのIT技術の活用が進むことで、旅館・ホテルで働く方々にとっても、IT機器の操作は身近なことになっていると考えられます。
次のグラフは、情報通信機器の世帯保有率の推移です。2009年スマートフォンの保有率は、9.7%でしたが急速な伸びを見せ、2019年には、83.4%と8割を超えました。
出典:総務省「令和2年版 情報通信白書」
シニア世代のスマートフォン所有も大幅に伸びています。家族との日々のやり取りにLINEを利用する、遠方の孫とビデオ通話する、外出先への行き方を調べる等、日常生活に欠かせないものになりつつあります。行政や金融機関がペーパーレス化を進める中で、ますます、日々の暮らしに欠かせないものとなるでしょう。
出典:MMD研究所「2020年シニアのスマートフォン・フィーチャーフォンの利用に関する調査」2020年7月実施
これは何を意味しているかというと、数年前に比べ、「誰にでも使える」という基準が変わってきているということです。シニア世代が普段の暮らしで使っているレベルであれば、IT機器の操作・システムの操作の問題は起きないと考えられるのです。
(3)「削減」ではなく「新たな価値の創出」を最終目的とする
「人手が足りないから機械化する」「コロナ禍で非対面・非接触にしたいからシステム化する」―切羽詰まった状況で、判断してきたケースもあるでしょう。しかし、目の前の問題に対処し、人員削減・コスト削減など、「何かを減らす」発想だけでは将来に向けての変革にはなりません。
ITシステムの導入には、少なからずコストがかかります。投資するならば、困っている課題を補うためだけの「守りの投資」ではなく、新たな付加価値を生み出す「攻めの投資」として考えたいものです。
ITシステムの導入によって人手をかけずに済むようになった時間をどう使うか。お客様との直接のコミュニケーションに時間をあて、満足度を高めるという使い方もあるでしょう。残業時間の削減や有給休暇の取得推進といった労働環境の改善にあてるという使い方もあるでしょう。
人件費の削減によって高収益化を図り、少数精鋭の強い組織にするという考え方もあります。ITシステムの導入によって、お客様にも働く人々にとっても価値が生まれる、そうした「攻めの投資」として計画を考えたいものです。
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