老舗旅館が「シック&モダン」をテーマにイメージアップし、新たな人が集う場へ進化
南條旅館(長野県・別所温泉)
大正12年創業の小規模老舗旅館が、施設の陳腐化による低迷からの脱却を期して行った構造改革。
限られた予算の中で、宿の顔である玄関ロビーのリニューアルと、個人客を意識した食事処の整備だけに絞り、
一気に旅館のイメージのアップと収益構造の改善を図った。
「効率化を図りつつもスタッフとお客様の会話を大切にしたい」
-その思いを反映した改装後のロビーは人が集う場となり、新たな価値を生み出している。
限りある予算の中で、イメージアップをどう図るか
大正12年創業の小規模老舗旅館である南條旅館は、施設の経年劣化に加え、ロビー周りの装飾も長年手つかずのままであり、宿のイメージアップが課題となっていた。さらに、従業員の高齢化が進み、階段の上り下りのある客室への部屋出し対応ができる従業員が限られ、運営上の課題も抱えていた。
限られた予算の中で、これらの課題を解消すべく、宿の顔である玄関ロビーのリニューアルと、個人客を意識した食事処の整備だけに絞り、一気に旅館のイメージアップと収益構造および労働環境の改善を図った。
まずはロビーの片付けから
改装を検討し始めた当初のロビーは、民芸品や彫刻など、長年にわたり集まってきたものが雑多に置かれていた。エントランスの対面にある日本庭園に面した窓側には棚や置物が置かれ、ロビーは薄暗い雰囲気になっていた。
今すぐにでもできること-それは「片付け」。
スタッフ皆で、雑多な印象を強めている置物などを撤去し、まずはフロント側の窓側を解放。それだけでも、外光が入り、ロビーの明るさが増した。
お客様が集まる、ジャズの似合うロビー
改装では、ロビー奥側で視界の妨げとなっていた畳小上りや売店を撤去。見通しのよい空間を確保した上で、「ジャズの似合うシック&モダン」をテーマに、大人がゆったり過ごせる雰囲気とした。時間帯別のシーン照明、デザイナーズ家具、光の差し込む庭、レコードプレーヤー、エムズシステムの波動スピーカーなどがこれを演出。
チェックイン/アウトは、立ったままでの手続きから、新たにフロント近くに設けた窓際の席でのご案内が可能となった。
ロビーをお客様が集う場所に
「お食事のお部屋出しがなくなる分、スタッフはできるだけロビーでお客様と会話するようにしたい。」改装前の打合せで、現場を取り仕切る専務兼支配人の鈴木隼人氏が語った言葉だ。ロビーの改装は、「お客様が集い、スタッフとコミュニケーションを取る場」というコンセプトを軸に進められた。
まずは、ドリンクコーナー。コーヒーや紅茶(無料)、地ビールなどのアルコール類(有料)をセルフサービスで用意。それまでのチェックイン/アウトのためだけの場所から、モーニングタイム、午後のティータイム、さらに夜のBARタイムまでの寛ぎを提供するスペースに生まれ変った。
窓側のカウンター席や大きなテーブルには、電源コンセントを設置。既に整備してあったWi-Fiとともに、パソコンでの作業を快適に行える環境を整えた。
売店の商品ラインナップも刷新。箱物を積み上げることは避け、上田紬の小物をはじめ、信州ならではのこだわりの商品を取り揃えて、見るだけでも楽しいギャラリーのような空間として演出している。
さらにロビーの一角では、映画上映などを行えるよう、天井にスクリーンとプロジェクターを設置。スポーツのライブビューイングといったイベント開催なども始めた。
宴会場を食事処に
宴会需要の減少を踏まえ、3階宴会場を畳はそのままにしつつ、個人客向けの食事処へ模様替えを行った。部屋出しが多かった食事提供をここに集約し、労務負担の軽減とサービス品質の向上を目指した。料理も、別所温泉が古来から「七苦離(ななくり)の湯」と呼ばれてきたことにちなむメニューなど、オリジナル性豊かなものに刷新した。
旅館名、ロゴマークも「生まれ変わり」
改装を機に、館名を「旅の宿 南條」から、かつての「南條旅館」に戻し、ロゴマークも「三かりがね雁金尻合わせ」の家紋を用いて新たにデザイン。幸せを運ぶ三羽の雁金に、「お客様の幸せ」「従業員の幸せ」「地域の幸せ」を運ぶ企業を目指すという思いを込めた。旅館名とロゴマークの変更により、「生まれ変わり」を印象付けた。
"笑い文字"が温かさを演出
館内には、専務が自ら学んだ”笑い文字”が溢れ、「シック&モダン」な雰囲気に「温かさ」が加えられている。
時には、お客様の名前を笑い文字で描き、プレゼントするサービスも行っており、特にお子様連れのお客様に喜ばれている。
ロビーのコワーキングスペース活用で新たな人々の集う場へ
進化は更に続き、リニューアル後から約1年後、ロビーラウンジを別所温泉初の「コワーキングスペース」として開放を始めた。宿泊客以外にも足を運んでもらい、地域を活気づける場になればと始めた試みは、地元メディアにも取り上げられた。
コワーキングスペースとしての環境が整っているという告知は、別の効果ももたらした。テレワークの推進により、連泊でテレワークを行うお客様が現れたのだ。
「人々が集う場をつくる」というコンセプトによりリニューアルしたロビーは、これまでの旅館の枠を越え、新たな価値を提供する場へと進化し続けている。
接客・サービスの満足度がアップ
「ロビーを居心地の良い寛ぎの場所、お客様が集う場所とすることで、スタッフが積極的にお客様にお声がけをしてコミュニケーションを図る」、「食事の部屋出しを取りやめた分、食事会場で丁寧な献立の説明やサービスに注力する」といった狙いは的中。元々ホスピタリティに溢れているスタッフの力が最大限に活かされ、じゃらんのサービス評価で「4.8点(5点満点)」を獲得。まだ改装できていない施設の古さをカバーする大きな力となっている。
SNSでの館内の様子や地域情報発信もスタッフ数名で積極的に行い、来館時のみならず、お客様との繋がりを大切にする姿勢がお客様からの支持につながっている。
南條旅館
- 住 所
- 長野県上田市別所温泉212
- 客室数
- 23室
- 竣工
- 2019年3月14日
- オープン
- 2019年4月1日
- 総投資額
- 約3,400万円