株式会社リョケン

「2020年の営業状況と財務・損益状況調査」報告

令和2(2020)年1月から令和2年(2020)12月の間に決算期となった決算実績を対象に、旅館・ホテル様より営業・損益・財務の実績状況をご提供いただき、集計しました。調査旅館の平均客室数は61.4室、今回調査の規模別の件数割合は、大規模旅館は、18.7%、中規模旅館は52.1%、小規模旅館は29.2%となっています。施設規模の違いや、決算時期によるコロナ禍の影響の大小はありますが、単価維持の努力は続けられたものの、客数の大幅な減少とそれによる売上の減少がみられ、たいへん厳しい状況が浮き彫りとなりました。

1.売上効率
(1) 宿泊客1人当り・客室1室当り・定員1人当りの売上高と売上構成比
(2) 定員稼働率と客室稼働率
(3) DOR、ADR、RevPAR
(4) 売上単価・入込の前回実績比較

2.損益構造(収益性)
(1) 損益構成比
(2) 主な経費の売上高比率、客1人当りの経費効率

3.財務構造
(1) 安全性
(2) 活動性
(3) 借入金適正度

1.売 上 効 率

(1)宿泊客1人当り・客室1室当りの売上効率及び各種KPI

 

①宿泊客1人当りの売上高・基本宿泊料 等

宿泊客1人当りの売上高の平均は20,251円、同基本宿泊料売上の平均は16,492円でした。前年調査と比較すると、宿泊客1人当りの売上高で370円上昇し、宿泊客1人当りの基本宿泊料売上で132円下降しています。
宿泊客1人当りの附帯売上は3,759円で、うち飲食売上が2,219円、売店売上が763円といずれも前年を上回っており、GoToトラベルでの地域クーポンによる消費拡大効果があらわれているものとみられます。
また、日帰客1人当りの売上高の平均は5,437円でした。

 

②客室1室当りの年間売上高

客室1室当りの年間売上高は10,911千円と、前年調査から2,360千円の減少となりました。
また、客室1室当りの年間基本宿泊料売上は8,706千円と、同様に前年を下回っています。定員1人当りの年間売上高は2,109千円、定員1人当り年間基本宿泊料売上は1,647千円という結果でした。

 

③定員稼働率、客室稼働率

旅館営業の効率を表す定員稼働率の平均は37.9%と、前年調査から1.8ポイント低下しています。
内訳をみると、50%以上が全体の16.7%、45%~50%が11.1%、40%~45%が0.0%、30%~40%が50.0%、30%未満が22.2%となっており、施設によりばらつきが大きくなっています。
規模別の平均は、大規模旅館31.8%、中規模旅館39.3%、小規模旅館52.5%という結果でした。
販売している客室のうち実際に利用された客室の割合をみる客室稼働率(OCC)の平均は、63.3%でした。

 

④DOR、ADR、RevPAR
1室当り平均宿泊人員(DOR)は2.56人と、前回の調査結果に対して若干下回る結果となりました。
平均客室単価(ADR)は、42,220円、これに客室稼働率を掛けた数値のRevPARは、26,725円となりました。

コロナ禍の影響があり、単価はある程度維持されたものの、客数は大幅な減少がみられ、売上効率が低下する結果となりました。

施設からのコメント(抜粋)

(2)入込客数の前回実績との比較

今回ご回答いただいた旅館の、宿泊人員および日帰人員の前回調査との比較は下記の通りとなっています。
宿泊人員の平均は、前年実績の46,946人から22.9%減の36,215人となっており。
減少が特に顕著となりました。日帰人員も15.4%の減少となっています。

2.損益構造(収益性)

(1)損益構成比

ここでも、客数減による売上の減少から収益性の低下がみられ、人件費率、諸経費率が上昇し、収支マイナスという結果となりました。

 

① 売上原価率

平均売上原価率は21.5%と前年を下回っており、厳しい状況の中で原価管理の努力が継続されていることがうかがえます。

 

② 人件費率

売上に対する人件費の割合は36.6%で前年調査から4.4ポイントの上昇となっており、売上の減少が大きく影響しているといえます。
従業員が効率的に働いているかをみる労働分配率(人件費÷売上総利益)は48.4%で、適正範囲といわれる40%を大きく上回っています。

 

③  諸経費率(主な経費は5ページにて分析)

売上に対する諸経費の割合は38.4%で、前年の35.3%を3.1ポイント上回りました、営業費の割合は11.7%、業務費の割合は17.0%、管理費の割合は9.6%といずれも上昇しています。

 

④ 償却前営業利益率

償却前営業利益(売上高-売上原価-人件費-諸経費)が売上高に対して、どの程度あるかをみます。この指標は、GOP(Gross Operating Profit)ともよばれ、経営判断において重要な数値です。

今回の調査では償却前営業利益率の平均は3.5%と、前年調査の9.8%から大幅に低下しました。
20%以上確保している旅館が全体の7.5%、15~19%台が7.5%、10~14%台が7.5%、5~9%台が27.5%、5%未満が50%となりました。

 

(2)主な経費の対売上高比率・客1人当りの経費効率

①主な経費の対売上高比率

主な経費の対売上高比率は、送客手数料率7.6%、広告宣伝費率2.2%、エネルギー費(水道光熱費+燃料費)率8.7%はいずれも上昇しています。修繕費率は2.3%と前年調査を下回りました。

 

② 客1人当りの経費効率

客1人当りの主要経費の平均額は、送客手数料1,629円、広告宣伝費400円、エネルギー費(水道光熱費+燃料費)1,599円、修繕費422円でした。 客数の減少をうけて、いずれも増加という結果となりました。

 

 

3.財 務 構 造

今回も昨年同様に、安全性・活動性・借入金適正度について指標値を算出しました。ここでは調査回答旅館の平均値を、理想とする財務構造と比較することにより全般的な傾向と課題を見ていきます。
(貸借対照表項目に記載のある施設のみ取りまとめていますので、1.売上効率、2.損益構造と集計対象旅館が異なります。)

(1)安 全 性

a.短期支払能力をみる流動比率の平均は153.8%で、理想とする120%を上回っており、前回調査の122.3%から31.5ポイント上昇しています。コロナ対策として、多くの施設で緊急融資などの支援施策の活用が行われ、現預金が増加したことで流動比率が大幅に上昇したものとみられます。
個別にみると、流動比率150%以上が全体の48.0%を占めています。
一方で、100%以下も32.0%と、施設により大きな格差がみられます。

 

b.長期資本の運用状態をみる固定長期適合率の平均は91.9%と、前回調査の96.0%に対し4.1ポイント低下しました。流動比率と同様に、理想としている95%以下となっていますが、投資の手控えや長期借入金の増加が要因となっているとも言えます。

 

c.自己資本(資本金・法定準備金・剰余金の計)が、総資本(=総資産)に対して占める割合を示す自己資本比率は14.7%となっています。ここでも、借入金の増加や赤字計上の回答も見られたことで、前年調査の16.8%から2.1ポイントの低下という結果となりました。

 

(2)活 動 性

a.投下した総資本に対してどれだけの売上高を上げられたかをみる、総資本対売上高回転率の平均は0.67回転となり、前回調査の0.72回転から0.05ポイントの低下という結果でした。

 

b.総資本に対してどれだけの経常利益を確保できたかを示す、総資本対経常利益率(企業の業績評価の重要ポイントともいわれます。)は今回の調査ではマイナス1.05%という結果でした。

(3)借入金適正度

a.借入金(長期借入金+短期借入金)に対して、売上高がどの程度あるかをみる借入金対売上高回転率は、平均で1.12回転でした。

 

b.借入金対償却前営業利益率は、利息支払・元金返済の原資となる償却前営業利益が、借入金に対してどの程度あるかを示す数値です。
今回調査では5.47%と前年調査の11.03%から大幅に低下しました。