旅館経営の知恵
-リョケン研究員が
お届けする経営のヒント-
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生産性向上の大局観(1)
コラム「旅館はもっと良くなるべきだ」
人手不足が急速に切迫した問題となってきた。とにかく人の確保ができなくなってきている。そんな中、生産性向上への取り組みも、目的や着地点に対する認識がなんとなく空中分解して、漂流してしまうケースが見受けられる。しかし、だからこそ生産性というものを、もう一度経営活動の全体に照らして俯瞰してみたい。
コストと付加価値を意識する
一般に宿泊産業は、多額の資本を投下して施設を用意し、これを毎日有料で「貸す」ことで収益を得るという、いわば不動産業的な性格を帯びている。賃貸期間の長さの違いこそあれ、アパート経営と本質的には近い。
ビジネスホテルやシティホテルの宿泊部門は、これが大きな割合を占める。室料こそが売上のほぼ全てである。室料をしっかり取らなければ商売が根本的に成り立たないから、激しい競争の中でもなんとか価格を守って売ることに懸命の努力を払う。
一方、旅館はどうか?…言いたいのは、「1泊2食付」という料金形態の中で、コスト視点が曖昧になってはいないだろうか、ということだ。
余談だが、そもそも旅館は、概して室料が不当に安く売られていると筆者はかねて思っている。食事は「材料原価」という直接目に見えるコストがあるので、それなりの価格で売ろうと意識されるが、宿泊の方は売っても売らなくても見た目の費用にあまり違いがないため、売り値に対する執着が希薄になりがちなのだと思う。そして人的サービスについても似たような傾向が見られる。
あらためて、旅館の1泊2食付という「パッケージ化された商品」について見てみたい。ここには、部屋での寝泊まり、食事、大浴場の利用といった要素だけでなく、お部屋への案内、お茶出し、館内やお部屋についての説明、布団敷き(上げ)、食事会場での出迎えや席案内、料理提供、出発時の見送りなど…もろもろのサービスが「附随するもの」として含まれている。これらも「有料の商品の一部」である。
しかし、これらにかかるコストが、果たして「原価」としてどれだけ意識されているだろうか? こうしたサービスのうちいくつかはホテルでも行われている。これらのサービスをやめてしまえというのではない。ただ考えたいのは、それに見合った対価がもらえているか、ということだ。別の言い方をすれば、それらサービスにつぎ込まれているコストが、「それに見合う対価をもらえるだけの価値を生んでいるか」ということである。
何度も言うようだが、生産性とはアウトプット÷インプット、すなわち投入する労働量に対して生み出される価値、金銭に置き換えれば、人件費に対して得られる付加価値額によって表わされる。
本連載では、「業務効率化への取組み」の一区切りとして、ここ数回にわたり「業務を減らす」について考えをお伝えしてきた。これまで当然のこととしてやってきたサービス行為を「削る」ための着眼点である。中には、「そんなことをしたらお客さまに見放されてしまう」と思われるものも少なからずあるかもしれないが、「コストと付加価値」という観点から、一度リセットのうえ捉え直してみることをおすすめしたい。
(株式会社リョケン代表取締役社長 佐野洋一)
※当記事は、2018年4月に観光経済新聞に掲載されたものです。
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