株式会社リョケン

金太郎温泉

時代の変化に合わせた「段階的商品整備」を加速

金太郎温泉(富山県・魚津市)

顧客ニーズの変化、労務環境の変化に対応するため、2009年から経営革新計画に基づく「段階的商品整備」を進めてきた金太郎温泉。環境変化のスピードに対応するため、個人旅行客に向けた商品整備を加速している。

営業収益内で段階的に投資する経営革新計画

北陸新幹線「黒部宇奈月温泉」駅から車で10分。1964年の東京オリンピックで使用された選手村本部を移設し、1965年(昭和40年)6月に、株式会社天神山健康センターとして開業した金太郎温泉。温泉でゆったりと寛ぐひとときを通じて、「誰もが金太郎のように健やかになってほしい」との創業者の思いから命名された。客室92室・収容人数500名の大型旅館が時代の変化に対応するために取り組んだ経営革新計画を紹介する。

経営革新計画に基づいた4段階の改装とその狙い

蜃気楼で有名な魚津市に位置し、周辺には黒部渓谷トロッコ鉄道、立山黒部アルペンルートなど自然美豊かな観光資源に恵まれ、創業以来、多くのお客様で賑わってきた金太郎温泉。しかしながら、近隣には著名温泉地である宇奈月温泉があり、観光客誘致の営業活動は、団体客中心のボリューム勝負に頼る状況であった。しかし、時代の変化とともに個人客対応の必要性が高まり、商品整備の課題解決に迫られていた。

一方、日帰り温泉施設「カルナの館」の設備投資以降、過大となった借入金の負担が重く、新たな商品整備の資金捻出が難しい状況であった。この状況を打開するため、地元政財界の協力を仰ぎ、1,300人の株主から7億円の増資を行うとともに、新規借入金を調達するための「経営革新計画」を立案した。さらに、経営革新計画を進める前に取り組んだのが、エネルギーコストを中心としたランニングコスト圧縮による収益性の向上であった。豊富な温泉を活用した熱交換システムの採用などの施策により、収支バランスの改善に成功していた。

経営革新計画の基本方針は、「営業収益内での商品整備」であり、過度な借入金を伴わない設備投資としたため、収益性の向上は大きな下支えとなった。

金太郎温泉施設図

第1次改装から第3次改装までの取り組み

  • 第1次改装(2010年) 投資額2億5,500万円
    最初に手掛けたのは個人向けの商品整備。光風閣のロビーのイメージチェンジを図るとともに、4F客室フロアを個人客向けのエグゼクティブフロア「別邸峰の界」へと改装した。特別室1室、露天風呂付特別室1室、露天風呂付客室7室、レインシャワー付客室4室の計13室を個人客対応のフロアとした。さらにこのフロアの食事提供を行う場として、和ダイニング「雲井」を整備し、従来の客室での食事提供スタイルを変更した。
金太郎温泉/峰の界 金太郎温泉/雲井
  • 第2次改装(2013年) 投資額1億円
    朝食の改善と新需要獲得へのチャレンジがテーマ。朝食バイキング会場の宴会場を改装。多目的ホール「ガイア」として一新し、朝食バイキングのグレードアップを図った。
    この施設は大浴場やカルナの館への移動の動線上にあり、ほぼすべてのお客様が目にすることになり、新たな金太郎温泉のイメージリーダーとなった。
    またこの会場は、バイキングの他、会議、宴会、イベントなど多目的利用を前提としたため、ビュッフェ台、椅子、テーブルなど什器備品の選定を吟味し、セッティング変更の労力を最小限に抑える工夫もしている。
金太郎温泉/ガイア 金太郎温泉/茶寮「Ai」
  • 第3次改装(2015年) 投資額5,000万円
    個人客の急増から個人客向けのダイニング増設を図った。光風閣2Fの大宴会場「瑞兆」を改装し、宴会場機能を保ったまま、個人客用ダイニングとして兼用できる施設とした。全スパンを使った場合、25卓の個人客向けダイニングとして使用できる。さらに小グループ向けの食事会場として、3室の客室を小宴会場兼用客室へとリフレッシュ改装を行っている。
    第3次改装終了後は、料理の部屋出し提供を廃止して、サービススタイルの変更を明確にしている。
金太郎温泉/瑞兆 金太郎温泉/瑞兆各セッティング

環境変化への対応を加速させるため、第4次改装は短期間で実現

4段階のプロジェクトの仕上げとなる2019年は、当初3年間で段階的に進める予定だったが、ニーズや環境変化のスピードに対応するために、一気に短期間で実行する方向に切り替えた。主体となったのは、団体客利用を主として造られた光風閣別館の客室の見直しだった。個人客の増加とともに高まっているベッド希望に応えるための「畳文化を残した合理的な部屋づくり」を目指して、和風ツイン仕様とした。このことにより個人客の客室セット対応を最小限にしつつ、お客様のプライベート空間、時間を尊重する運営に切り替えをすることができた。今回の計画では、4フロアある光風閣別館の2フロアを改装し、残るフロアは、従来通りグループ・団体向け客室として活用しつつ、状況の変化に合わせて順次改装することにより、光風閣全体を個人客中心の棟としてとらえ、運用することにした。3F、4Fを合わせて「別邸峰の界」とし、グレードアップと客層の混在を最小限に抑える工夫をしている。

金太郎温泉/光風閣3F「峰の界」

金太郎温泉は、従来は風呂なしの和室が中心の構成であったが、今後はすべての客室をバス付とする方針となっている。その手法の一つとして「シャワーバス」を光風閣別館客室の改装で採用している。シャワーと浴槽が一体となったコンパクト仕様で、限られたスペースを有効に活用できている。

金太郎温泉光風閣別館のシャワー・バスタブ一体型ツイン

さらに、光風閣別館はベッドを採用した上で、広い和室(畳)スペースを残し、布団併用により、5~8名の利用が可能なお部屋としている。この和室スペースの意匠として「お遊びクッション」などの遊び心を採り入れている。

金太郎温泉/光風閣別館客室

ワインを楽しむコンセプトダイニング「菜波-napa-」

第4次改装のもうひとつの注目施設がコンセプトダイニング「菜波-napa-」の新規オープン。光風閣2Fの倉庫を改装した内装は、従来の旅館の施設とはその趣を異にしている。ワイン産地のナパバレーから命名された「菜波」は、ワインを楽しむためのレストランとして位置づけられ、お客様はお気に入りのワインを持ち込んで、お好みの料理をチョイスして楽しむことができるシステム(食事は別料金)。

上質でクラシカルな空間には、随所にこだわりの意匠が施され、独特の世界観を感じることができる。お客様は飲んだワインボトルにサインして、棚にディスプレイすることができる。空間づくりに参加していただくような遊び心の仕掛けも採り入れられている。

金太郎温泉/コンセプトダイニング「菜波(ナパ)」

経営課題の解消に向けて

4次にわたる段階的なリニューアルオープンの最終段階となった2019年6月のオープン以降、客室稼働率80%以上を維持しているなど、営業効果は大きいものがある。

もうひとつ、大きな効果がある。スタッフの労働環境の著しい改善だ。改装後の客室では、接客サービスのスタイルが客室からダイニングへ切り替わり、接客係個人のスキルに依存しない、一定のサービスレベルの実現や若手スタッフの効率的な稼働が実現された。さらにスタッフの流動化が図られたため、マルチシフトによる業務波動への対応も可能になるなど、労務環境の変化は会社全体に及ぶこととなった。風通しの良い職場環境が整ったことにより、スタッフの情報共有意識や意思統一、さらには人材採用など、当初の想定以上の大きな効果も表れている。

止まらない金太郎温泉の進化

金太郎温泉では、すでに次なる受け皿となる施設やお客様ニーズに対応する商品企画のプランニングに取りかかり始めている。お客様の旅時間のさらなる充実と上質化を目指して、館内のみならず、地域の観光資源の発掘など着地型観光の拡充にも力を入れていくことを考えている。刻々と変化する顧客ニーズに応え、旅の魅力を強く発信していくために、今後も収支バランスを考慮しながら、新たな改革を着実に進めていく予定だという。これからの動きをさらに注目していきたい。

金太郎温泉
金太郎温泉
住所
〒937-0013 富山県魚津市天神野新6000
TEL
0765-24-1220
客室数
92室
第4次改装
グランドオープン
2019年6月21日