地域特性と自然環境を活かし、新たな顧客層を開拓
嵐渓荘(新潟県・越後長野温泉)
燕三条駅から車で45分、渓流沿いに建つ一軒宿、嵐渓荘。コロナ禍を機に、ものづくりの町・新潟県三条市に一軒しかない温泉旅館という立地特性を活かし、三条市を訪れるビジネス客をターゲットとして既存客室と既存宴会場の改修を実施。地元の企業・観光事業者等とも連携する温泉旅館の新たな活用方法「仕事創りの宿」を新展開することで、新規顧客の獲得、単価アップによる収益増加を目指しました。
目次
1.嵐渓荘はこんな宿
嵐渓荘は、新潟県三条市の渓流・守門川に面した秘境の温泉旅館です。その魅力は多岐にわたります。
■山里の渓流の一軒宿。秘境の豊かな自然環境で、四季毎の自然体験ができる。
■登録有形文化財指定の「緑風館」をはじめとする、自然と調和した宿泊棟。
■館内の水はすべて天然湧水、温泉は日本屈指の強食塩泉。
■濃厚な源泉と湧水だけで炊かれた、名物の「温泉粥」。
■地元食材を使った滋味深い会席料理が好評。
■個室での食事提供や貸切風呂によりプライベートな空間を確保。
■OTAの口コミ評価が長年に渡り高得点。(5 点満点で4.5 点以上)
■秘湯の会、味の宿など全国組織に加盟。
2.新たな顧客層開拓が課題に
嵐渓荘は主として、個人のリピーターのお客様に支えられてきましたが、グループ利用や日帰り宴会利用も一定の売上を構成してきました。
6名以上のグループ利用での件数は、2019年3月期では、宿泊者全体の約4分の1を占めていました。
しかし、コロナ禍により、グループでの宿泊利用はほぼゼロになり、コロナ後もかつてと同様のグループ利用の回復は厳しい見通しとなっています。
また、新潟県では、その土地柄から宴会需要が盛んで、かつては年間売上の3分の1が日帰り宴会によるものといった年もありました。しかし、地域住民の高齢化などにより、宴会需要は年々減少し、さらにコロナ禍により宴会需要が蒸発し、宴会場は遊休施設と化しました。
さらに、嵐渓荘の一部客室棟(りんどう館)は老朽化が進み、単価が低く抑えられており、稼働も低い状態が続いていました。他の客室棟についても、大規模な改修は近年行われていなかったため、単価アップにより売上を上げることも望めない状況でした。
現状の商品構成ではコロナ後の入込・売上の維持・拡大が難しいため、嵐渓荘では今後、どういった新しい顧客層を開拓していくべきか、あるいはそのためにどのような方向性で商品づくりを行うべきかが大きな課題となっていました。
3.地域特性を活かし、新たな顧客層の獲得を図る
嵐渓荘では、これらの課題解決のため、どういった顧客を新たに開拓していくかを検討しました。そこで、嵐渓荘の立地する三条市の地域特性に着目し、顧客層の拡大を図ることとしました。
(1)三条市を訪れるビジネス客のリピート化を図る
燕三条エリアは金属加工などの工場が集積する、国内有数の「ものづくりの町」です。三条市調査の燕三条駅新幹線利用者ヒアリング調査によると、三条市の来訪目的は45%が業務・ビジネス目的と、ビジネス需要が旺盛な地域です。
嵐渓荘は、三条市で一軒しかない温泉旅館で、かつ新幹線の燕三条駅から車で40分と、秘境の宿ながら比較的アクセスのよい立地です。
自然豊かな立地環境という強みを活かし、ビジネスでの訪問時に利用してもらうだけでなく、プライベートでの再訪を狙いとしました。
(2)エリア全体で挑戦する”工業観光”で新たな需要を喚起
「ものづくりの町」として知られる燕三条には、様々に展開されるオープンファクトリーや、「燕三条畑の朝カフェ」で⼈気の農家さんなど⼯業や農業、ものづくりの現場を訪れ、楽しみ・学ぶ機会があり、そうした体験と宿泊を合わせたプランを企画しました。「大人の修学旅行先」として、企業研修などの新たな需要の掘り起こしに取り組んでいます。
4.ビジネス利用者が快適に過ごせる施設へ
このような目的のもと、ビジネス利用での快適性を高める商品整備を2022年に実施しました。
既存客室と既存宴会場にビジネス利用向け機能を高めた改修を実施するとともに、改修にあたっては、嵐渓荘の強みである自然環境を最大限活かすようにしました。あわせて、研修、インキュベーション、チームビルディング等をサポートする滞在プログラムの造成も行い、ビジネスでのグループ利用の取り込みも目指しました。
地元の企業・観光事業者等とも連携し、温泉旅館の新たな活用方法=〝仕事創りの宿〟を新展開することで、新規顧客の獲得、収益の付加を目指しました。
なお、これらの商品整備・プログラム造成にあたっては、事業再構築補助金を活用しました。
1)ワークデスク+ベッドルーム+テラスを備えた翠悠館客室
単価も稼働も低く、老朽化していた「りんどう館」全4室を、駆体を残しつつ、3室にリノベーションしました。あわせて棟名を「りんどう館」から「翠悠館」に変更しました。
「翠悠館」は高単価・高付加価値を目指した客室タイプであるものの、客室が貸切露天風呂に近い点から、客室には露天風呂ではなく、自然を体感してリフレッシュできるテラスを設置。WiFi環境やワークデスクなども整え、ビジネス利用での機能性を高めました。
また、嵐渓荘で初となるベッドの客室とし、高齢の方にも利用しやすい設備としました。
2) 中庭の景観を活かしたコワーキングスペース兼個室食事処
遊休施設と化していた36 畳の和室宴会場を、中庭の景観を活かしたコワーキングスペース兼食事処に転用しました。可動式パーテーションで4区画の個室に分割可能としています。嵐渓荘の魅力である自然を取り入れるために、廊下位置を変更して、中庭側に広縁を設け、小スペースながら開放感ある個室として設計しました。また、WiFi、電源を備えることで、食事時間帯以外はコワーキングスペースとして利用可能としました。
嵐渓荘ではこれまで、全客室で部屋食での料理提供を行っていましたが、個室食事処での食事対応を増やしたことで、顧客サービスを低下させることなく従業員の労務負担を軽減し、業務効率化を図っています。
3) どこでもワーケーション
嵐渓荘では「どこでもワーケーション」と銘打ち、宿泊客が施設内の各所を移動し気分転換しながら仕事ができるよう、客室、屋外含め、施設内のどこでもWiFiを利用可能としました。館内随所に椅子・机・電源を整備した他、お客様の気分転換になるよう、中庭の整備とテラスの設置も行いました。
4) 滞在中のアクティビティを充実化
5.新たな需要の取り込みと商品整備により単価アップを実現
新たな需要の取り込みと商品整備により、2024年現在、翠悠館では、旧りんどう館(オープン前)に比べて1万円弱の単価アップを実現。最も単価の低い部屋タイプの底上げを行ったことで、緑風館や渓流館の単価も上げることを可能としました。結果として、全館で見ても、4,000円ほどの単価アップを実現できています。
嵐渓荘
- 所在地
- 〒955-0132 新潟県三条市長野1450
- 客室数
- 16室
- 総合企画
- 株式会社 リョケン
- 設計・監理
- 株式会社 倉橋建築計画事務所
- 施工
- 有限会社 ヤマセン
- 造園工事
- 株式会社 要松園コーポレーション